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駄作MS Mk.Ⅷ 「MAM-09 グラブロⅡ」

「駄作機の王」

 一口に駄作機と言ってもその駄作の理由は様々だ。性能が足りなくて不採用、開発が間に合わなくて不採用、そもそもまともに使えなくて不採用。駄作機の中にもたくさんの多様性があり、そこにも社会が存在するのだ。そしてそんな駄作機の中にはその世界で頂点に立つ奴らもいる。エリートオブ駄作機、駄作機界の王である。彼らは決して性能が足りなかったわけでもなく、開発が間に合わなかったわけでもなく、運用に問題があったわけでもない。ただ一つ言えることがあるとするならばそう、「生まれた時代が悪かった」ということだろう。
 そんな駄作機界の王にふさわしい機体として、MAM-09、グラブロⅡの名前をここで挙げておきたい。

世紀の大発見

 ミノフスキー粒子の発見が宇宙世紀において革命をもたらしたことは誰もがご存知のことであろうと思う。ミノフスキー粒子は人為的にしか作られず、それらを散布すると格子状の力場『Iフィールド』を形成し、この力場はあらゆる電磁波を減衰させる効果がある。この効果によりレーダーや誘導兵器が無力化され有視界戦闘の重要度が飛躍的に増し、戦争に革命が起きた。
 ミノフスキー粒子が実用化されて10年、宇宙世紀0079年の半ばにはIフィールドを兵器の防御システムとして運用する方法が考えられた。二つのIフィールドが接すると互いに跳ね返し合おうとする作用が働く。これはすなわち「斥力」であり、これを利用して機体に大型Iフィールドジェネレータを搭載し、全体をIフィールドで覆うことができれば敵のビーム兵器を尽く弾き返すことができる、最強のビームシールドが完成するのではないかという仮説に基づくものであった。
 この理論に基づきIフィールドジェネレータの研究開発が進み、なんとか実用レベルのビームを弾くIフィールドジェネレータの開発が進みつつあった。

 そんな中、ミノフスキー物理学を研究していたアレクセイ・ランダウ教授はとある発見をしたのである。
 というのも、従来水中でミノフスキー粒子を利用した刀剣などを起動した場合その熱により水が水蒸気爆発を起こすという可能性が示唆されていた。しかし実際にはそんなことはなくIフィールドが水を押し除けることで水中でも運用が可能であるということを導き出したのである。ちなみにこの研究は連邦軍MSガンダムとジオン軍MAグラブロとの交戦データの解析とそれによるビームサーベルの水中での運用の可能性についての仮説から導き出されたものであった。そしてこの研究結果が新たなる兵器開発計画を推進することとなったのである。

 水中を動くものは遍く水との摩擦抵抗を受けているが、これは決して無視できない問題であった。これを解決するための技術として旧世紀にスーパーキャビテーションという技術が考案されていた。これは物体の表面を気泡で覆うことによって物体が水に触れないようにし、結果的に摩擦抵抗を軽減するというものでこれにより水中で300ノット(555km/h)を超える高速を記録する魚雷すら現れた。

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 だがこのスーパーキャビテーション技術は潜水艦などの大型艦艇に導入するには問題が多く、水中高速魚雷も誘導性能で劣るため最終的には廃れていく兵器となった。

 しかしIフィールドが水を押し除ける力があるということは理論上スーパーキャビテーションと同等の効果を得ることが出来、しかも従来のスーパーキャビテーションよりも確実性が高いことが濃厚となった。これはすなわち潜水艦などの兵器を従来よりも圧倒的な高速で機動させる可能性を示唆しており、地球連邦軍の海上輸送路封鎖を考えていたジオンにとっては願ってもない大発見だったのである。

 そしてこのIフィールド推進システムを実際にテストするための機体として水中用MAのグラブロをテストベッドとして運用することが決まった。当初MAM-07 X4グラブロ改と呼ばれていたが、このIフィールド推進システムに合わせ機体の設計改変箇所が増えた結果型番をMAM-09とし、名前をグラブロⅡ(ツヴァイ)と改称することとなった。
 グラブロⅡの設計においてはまずIフィールドジェネレータの搭載が行われたが、水中ではビーム兵器を弾く必要はないためIフィールド推進システムに必要な最低限のジェネレータのみが搭載された。よってビーム兵器を弾くためにはIフィールドの出力が不足しているが、水中においてはビーム兵器の減衰が大きいため問題とはされなかった。
 これに加えて全長を5m延長してジェネレータ出力を増大させた。また水中での推進装置として熱核水流ジェットエンジンを搭載することに変わりはないが、これを6基から8基に増やした上でエンジンの換装で推力も増大させ、さらに速度を高めることとした。さらにクローについてもガンダムの足を破壊するなど戦果は上げていたものの、重量削減と抵抗減少のために固定式となり、実質的にクローとしての機能は失い、主に水中での安定翼と舵としての機能が高められた。
 武装に関しては基本的に変更はないが、機首魚雷発射管にサブロックと対地ミサイルの発射機能を追加しクローが使えなくなったことを補うこととしていた。

 これらの設計の改変により機体の重量は410トン、全備重量950トンと小型潜水艦以上のサイズとなったもののIフィールド推進システムにより従来のグラブロよりも圧倒的に推進効率が上がることは確実だった。グラブロが30ノットと潜水艦にしては足が速い程度の速力しかなかったのに対し、グラブロⅡの予想される速力は350ノットを目標とするという途方もないものだった。そしてこれだけの速力があればそもそも敵のあらゆる船を振り切ることが可能で、魚雷すら振り切ることが可能なのである。これは実質的に水中でグラブロⅡの敵になりうる兵器がいないことを意味しており、水中用MAの決定版と言えるのである。
 そして元祖水中用MAであるグラブロはビグロの改造型に止まっており、あくまで水中戦に最適化されているとは言い難い側面があった。これに対してグラブロⅡは抜本的な設計改変とIフィールド推進によりグラブロを真の水中用MAに昇華することに成功し、水中用MAの本命とまで言える機体となる予定だったのである。

 ここまでの設計改変はグラブロの設計を担当していたMIP社が行っていたものの、Iフィールドジェネレータという最新鋭技術を含めたこの改修には時間がかかり、設計が終了したのは宇宙世紀0079年12月3日のことであった。そしてこのグラブロⅡの製造についてはグラブロ製造経験があるサンディエゴ基地にて行うことが決まったが、それと同時に地球連邦地上軍の反攻作戦が開始、北米のジオン軍拠点は危機に瀕した。
 サンディエゴ基地もグラブロⅡの製造をしている余裕がなくなり疎開先を模索、辺境の中米グァンタナモ海軍基地に製造設備も含めて丸ごと疎開することとなった。

敗北の足音

 サンディエゴからグァンタナモへの製造設備移転は遅々として進まなかったが、その中で少しずつ製造を進めていた。しかし戦局は必ずしも好転せず、グァンタナモ基地は12月29日、地球連邦軍の侵攻を受けるものの、辺境基地であったグァンタナモ基地には戦力がなく、抵抗をすることなく投降すると言う結果になった。

 これによりグラブロⅡ開発計画は頓挫するかと思われたが、グァンタナモ基地を調査した連邦軍技術者はグラブロⅡの開発計画に対し好意的な反応を示した。水中におけるIフィールドの挙動の研究、そしてそれを利用した水中での摩擦抵抗軽減という技術は連邦にはなく、実験機としての存在価値を見出し、そしてこの技術の可能性を地球連邦は確かめようとしたのである。結果グラブロⅡ開発チームは連邦軍の監視下で連邦の協力を得ながら開発することができ、遅滞していた開発計画は順調に進み始めた。

 宇宙世紀0080年1月9日、ジオンの敗戦後にグラブロⅡは完成することとなり、公試運転が行われることとなった。カリブ海の凪いだ海に進水したグラブロⅡは無事にIフィールドの起動にも成功し、機関最大戦速での速力は281ノットを記録するなどその性能は目を見張るものがあった。水中での圧倒的な高速は概ね計画通りであり、その速力はあらゆる艦艇、兵器を上回るものであったのだ。高速航行時の水中での運動性に問題があり舵の効きが悪すぎるという問題もあったが想定の範囲内でありこれを解決するためには従来型の舵では解決不可能であるとの結論も出ていたため先送りの事項となった。
 武装を搭載することはなく非武装の性能実験機として開発された機体であったが、連邦軍をして「その性能は比類なくこの機体があれば制海権の確保は容易ならしむる」と評価されるほどの圧倒的な性能であった。
 特にIフィールドを利用した推進装置に関しては水の抵抗を大きく軽減することに成功しており、海を巡る戦争における覇権を握りうる技術であるとの評価も下った。
 そして今後の地球圏を制圧するための最新鋭兵器として、グラブロⅡの技術を生かした新型兵器の開発が行われ......ることはなかったのであった。

過ぎたるは猶及ばざるが如し

 そもそも一年戦争が終結し新たな武力衝突は考えにくい状況では地球連邦軍の軍縮は明確で、もし武力衝突があったとしてもジオン残党軍の駆逐という治安維持任務程度しか起こらないことを考えればわざわざIフィールドまで装備した莫大なコストのかかるモビルアーマーを製造する意味は非常に薄いと言わざるを得なかった。もちろんジオン残党の水陸両用MSといった脅威は確かに存在したが、グラブロ及びグラブロⅡは潜水艦ではなく所詮MAであり潜水艦ほどの汎用性を持っていないこと、加えて潜水艦建造以上にコストが必要であるというのがこのグラブロⅡの実用化と正式採用を阻んだ。そしてジオン残党の水中戦力については連邦が制空権を握っていることを考えればグラブロⅡのようなMAを作ってまで対応する必要はないとされた。

 加えて、一年戦争後のモビルスーツ運搬技術、特にドダイ改やベースジャバーと言ったサブフライトシステムの一般化はモビルスーツの戦略・戦術機動力を大幅に向上させる結果となり、これが水中用MS・MAの重要性を相対的に低下させ、航空機の存在価値すらも脅かしつつあった。またモビルアーマーに関してもモビルスーツの性能向上によりモビルアーマーの費用対効果は減少した。
 一方でグラブロⅡ最大の強みであるIフィールド推進についてはIフィールドの小型化に手間取っている以上簡単に小型化はできず、モビルスーツ等に搭載することは未だ叶わず、コストの問題も解決できずにいた。

 これらの総合的な評価から、グラブロⅡについて連邦軍の報告書では「ジオン公国の兵器開発が『恐竜的』肥大化を進めある種の暴走を生んだ事による合理性の欠けたガラパゴス的な混迷の結果に生まれたものである」とし、「技術的に興味深い点がありかつ実戦で運用すれば確実に戦果を期待できる兵器である」としながらも、「それを量産する必要性は認められない」として不採用、唯一の性能実験機も解体されることとなった。

 こうしてジオン公国の技術の粋を集めた最強の水中用MAになるはずだったグラブロⅡはその圧倒的な高性能を記録しながらも決して採用されることはなく、その技術の系譜も途絶えることとなってしまったのである。

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