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ニカラグア革命の「英雄」による、独裁と腐敗の過程

柴田大輔「ニカラグア革命の「英雄」による、独裁と腐敗の過程」『歴史地理教育』944(特集:強まる権威主義 危機に瀕する民主主義)、2022年、10〜15ページ。

目次
はじめに
1.2021年の大統領選挙
2.対立候補を押さえ込む法令制定
3.2018年の反政府運動
4.ダニエル・オルテガ氏の変遷
5.憲法改正し、大統領再戦の道を開く
6.ベネズエラの資金提供と腐敗
7.独裁の完成と、現地の風景

要旨
 
ニカラグアでダニエル・オルテガ大統領の独裁化が著しい。本稿はオルテガ大統領の独裁とニカラグアの現在について述べている。著者の柴田は中南米を主なフィールドとするフォトジャーナリストで、現在はフリーランスで活動をしている。
 オルテガ大統領は2021年の大統領選挙で「圧勝」し、四期連続5回目の当選を果たす。しかしこの裏には、野党出身で最有力候補だった人物を逮捕するなど政府による「敵」の排除があった。弾圧の根拠には、国家転覆罪や国家反逆罪、フェイクニュースやヘイトクライムを取り締まる法律の恣意的な運用があった。
 オルテガ氏は、もともとはニカラグアで独裁体制を敷いて富と権力を独占していたソモサ氏の一族を打倒した革命の中心メンバーだった。しかし権力を掌握すると、政敵を排除していって独裁化を進めていった。現在のニカラグアでオルテガ氏の独裁の末端となっているのは、「CPC(市民権力委員会)」と呼ばれる組織である。表向きは「直接民主主義」を掲げるオルテガ氏が国民の意思を直接政治に反映させるための組織だが、その実態は住民がお互いに監視をしあう「隣組」であった。
 オルテガ大統領はメディアを弾圧して憲法を改正して独裁体制を築いた。彼はメディアを買収して支配するのだが、その資金はベネズエラから流入してきている。ベネズエラのチャベス前大統領は、莫大なオイルマネーを背景に反米を全面に打ち出して周辺国を支援した。ニカラグア、ひいてはオルテガ大統領はこの恩恵に預かったうちの1人である。ベネズエラから流入してきた金を取り扱って処理したのはオルテガ大統領に近い人々であり、そこでは政治的な腐敗が生じている。
 本稿の最後に、柴田は2021年のニカラグア市街の様子を記述している。それによると、オルテガ夫妻の自宅の周辺はバリケードが築かれて武装警官が巡回している。巷の人々は「夫婦は反体制派の攻撃を恐れて地下室で生活している」「身辺を守るのは外国人。なぜならニカラグア人を信じられないから」などと噂をしているようだ。このような状況にあるニカラグアでは、現在でもたくさんの難民が隣国に避難している。「独裁の犠牲になるのは国民だ」というひとことで、柴田は本稿を締め括った。

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