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リキニウス統治下のドナウ川流域諸州と軍隊

大清水裕「リキニウス統治下のドナウ川流域諸州と軍隊ーブリゲティオ銘板再考ー」『滋賀大学教育学部紀要』64、2014年、pp.83-94。

目次
はじめに
1.リキニウスとドナウ川流域諸州の総督たち
2.リキニウスとドナウ川流域の軍隊
3.ディオクレティアヌス時代のドナウ川流域の防衛網
おわりに

要旨
 ブリゲティオ銘板とは、コンスタンティヌス帝とリキニウス帝によって発布された法文を記録した青銅版である。その内容は、両帝が兵士たちに対して免税特権を保障したものであり、この時代の兵士の待遇を示す史料とされたり、ディオクレティアヌス治世に導入されたとされるカピタティオ・ユガティオ制の実態を示す史料とされたりして、先行研究でも注目を集めてきた。しかし、近年の研究の進展によってその解釈は揺らいでいる。特にブリゲティオ銘板に登場する「ダルマティウス」なる人物の役職についての解釈は再解釈の必要があると、大清水は述べている。本稿ではリキニウス治世のドナウ川流域諸州で製作された碑文資料の検討を中心に、ダルマティウスの役職が属州総督なのか、あるいは前線の軍司令官なのかという問題について取り組んでいる。
 リキニウス支配下のドナウ川流域諸州の軍隊と属州総督の関係は、希薄であった。ドナウ川流域の諸州で発見されている碑文史料を検討する限りでは、この地域で属州総督が軍隊と強い結びつきを持っていたとは言い難い。彼らはドナウ川から離れた内陸の都市での活動が主であったようだ。前線で活動していたのは、軍司令官をはじめとする軍人であり、彼らは皇帝と密接な関係にあったと考えられる。ブリゲティオ銘板は、311年6月10日に発布された法文を記録している。この時期は、リキニウスの後見人であったガレリウスの死から数週間というタイミングで、この法文は特権を保障することで兵士たちの支持を固めようとする極めて政治的なものであった。銘板に登場するダルマティウスは、軍司令官であった可能性が高いと、大清水は結論づけている。


よいお年を。

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