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【考察】真・女神転生3 コトワリを考える

こんにちは、なるぼぼです。

ようやく真3のPC版を買いました。
カグヅチ塔直前まで到達し、もうそろそろクリアというラインまで来たので、今回は今までのメガテンの思想を用いながら、真3におけるコトワリの考察をしてみようと思います。
よろしくお願いします。

1.コトワリとは何か?

さて、お忘れの方もいらっしゃるかもしれないので、ここで一度コトワリとは何か、という点を整理していこうと思います。

そもそも、真3は前々作の真1とは違い、人間の手によって東京が崩壊した世界線です。
真1はICBM落下後30年が経った世界であったのに対し、真3のボルテクス界は新たに作られる世界のための仮初の空間、という程度でしかありません。
そして、マニアクス以降のアマラ深界においては、アマラ宇宙として並行世界が存在すること、そしてその外部存在としてアラディアが位置していることがわかります。
ここから見ると、LAWやCHAOSのような長期的な支配を前提とした思想よりも、ただ「どうあるべきか」という単純なアイデンティティの方が強く現れます。

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話を戻しましょう。
コトワリは、創生のために必要となる思想です。
どのような思想を持つかは自由ですが、その思想を開眼するにあたりマガツヒと呼ばれる精神エネルギーが大量に必要となります。
それを集め、「どのような世界が理想か」という思いを強く持つことで、コトワリは開眼します。
作中ではシジマ、ヨスガ、ムスビのコトワリが顕出します。

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コトワリは旧作のLAWやCHAOSとは違い、世界の理想を一人の人間を中心として作られたものです。
LAW、CHAOSはあくまでその世界でどのようなスタンスで生きていくか、でありますが、ボルテクス界の真3においては、その思想がそのまま世界全体を覆いつくすことになります。
要は逆らえる人がいないってことです。
それだけ強力な思想がコトワリである、という点には言及しておきます。
そして、それだけ歪んでいるということも、また事実なのです。

さて、そろそろコトワリの中身を見ていきましょう。

2.シジマ

まずはシジマから。
シジマは氷川が開いた思想であり、永遠の静寂の中で、人とも悪魔とも呼べない存在となった生命体が穏やかに生きていくという世界です。

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シジマの思想には、氷川の過去が関わっています。
旧世界において、氷川はガイア教の一員でありながら、彼らの混沌の思想とは異端となる位置に座していました。
彼はミロク経典を偶然発見し、その解読を行い、東京受胎とボルテクス界の生成を引き起こします。
そして彼はニヒロの悪魔たちをまとめ上げ、マガツヒを集めて創生に乗り出すのでした。

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さて、旧世界、ボルテクス界序盤の氷川の行動を見てみると、氷川はどうやらカオス思想の極端な立ち位置にいるように思えます。
ガイア教徒であることが何よりの証拠でしょう。
ただ、本当にそうなのでしょうか。
僕には気になる点が二つあります。

一つ目は、氷川の用いる「王国」という言葉。
彼は時々シジマの世界を「王国」と表現します。
これ、今までだとLAWの考え方に近いんですよね。
LAWの理想は「千年王国」。
神の絶対的信仰と統制、管理を理想とする世界です。
この言葉は真1のロウヒーローが宣言しまくるため、嫌でも耳にするようになります。

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そしてもう一つが、シジマのコトワリ開眼直前に、ギンザのエリゴールが残す言葉。

(中略)そこに住まうことを許されるのは、精神を究極にまで進化させた、人も悪魔も超越した存在…
つまり、神になれるのだよ!

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この言葉は、まさにシジマにあるLAWの思想を体現化したものです。
「神」という言葉が出ることによって明らかにLAWに近いことを宣言していますが、それよりも重要なのが「人も悪魔も超越した存在」という発言。

彼はシンプルに神と結びつけていますが、僕はこれを「宇宙」と捉えることができるのではないか、と考えます。
そうです、彼の言う思想は恐らく「梵我一如」の理念なのです。
梵我一如は、一人の人間「アーリマン」と絶対的宇宙「ブラフマン」が同一であることで、人は悟りを得ることができるというものです。
「人も悪魔も超越した存在」というのは、まさに梵我一如を起こした悟りを開いた生物なのでしょう。
ちなみに、アバタールチューナー2においても、梵我一如の概念は扱われています。
考察もありますので、下記リンクからどうぞ。(ダイマ)

そして、シジマにおける理を開眼した氷川は、魔王「アーリマン」と一体化します。
名前がまさに梵我一如の表れなのですが、ここで面白いのがアマラ深界にてアーリマンは「虚無の魔王」と表現されている点です。
混沌という静寂とは真逆の存在であるため、彼らから見た歪んだ梵我一如に対する批判と皮肉が、虚無の魔王という表現なのでしょう。
アーリマンは梵我一如の「我」、つまり個人を支配する原理を指す言葉ではありますが、それが静寂として明滅するだけというのは、神秘的ではありますがなんとも物悲しいものです。

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さて、LAWの視点にかなり近いのがシジマということがわかってきましたが、ここでさらに面白いのがここまで話しているのはすべてアジア圏の思想によるものである、ということです。
真1ではYHVHへの忠誠や神の使いなどの言葉、そして神の概念が複数人に及ばず一人を指している点からしても、LAWはキリスト教やユダヤ教を原点とする一神教的考え方がしっかりと取り込まれています。
一方、ガイア教の経典から思想を得た氷川は、ヒンドゥーや仏教の思想をLAW的に捉えるというコトワリを作り出しました。
ヒンドゥー教は多神教であるので、LAWのような唯一神への絶対忠誠というものではありません。
LAW的なのに仏教やヒンドゥー教に近い。
なんとも型破りなコトワリだと思います。

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さて、シジマはここまで。
次はヨスガです。

3.ヨスガ

お次はヨスガ。
主人公の友人である千晶が開き、弱者はみな死に強者のみが生きる世界を理想としています。

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僕は、ヨスガの思想は「女神の皮肉」であると感じています。
前から語るメガテンシリーズ特有の皮肉めいた描写を、僕は「女神の皮肉」と呼んでいますが、今作はまさにヨスガそのものが皮肉のようなものだと思っています。
ヨスガはまさにLAW、CHAOSの本質のみを抽出して生み出されたような思想だからです。

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LAWの思想は千年王国と永遠の平和です。
ただしそれは嘘であり、真実は徹底的な法による統治と選民思想でありました。
実際に真2のTOKYOミレニアムでは知識が与えられ真実を理解し、役割以外の行動もできるザインがいる中で、労働地区やヴァルハラの人々は短絡的な生き方をしているか、洗脳され快楽漬けにされながら仕事をするような状態になっています。
真4の東のミカド国においても、カジュアリティーズには知識が与えられず、逆に支配している側のラグジュアリーズに感謝しているような状態でした。
これはまさに選民思想の表れで、弱者は役に立つ方法で奴隷のように扱っても問題ないという、LAWの歪んだ部分=本質です。

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CHAOSはもとから丸出しなので細かく言及はしませんが、力による徹底した混沌の中では、力のないものは弱者として虐げられるという点から、選民思想的な意思を見出すことができます。
真4の爆炎の東京における家畜人間は、まさにCHAOSの選民思想の表れと言えます。
真1のヤマ裁判においても、力がすべてなので気に入らないやつは捕まえてしょっぴくという滅茶苦茶さが、CHAOSの本質を物語っているように思えます。

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さて、こうしてみると、LAWもCHAOSも弱者に対しては徹底的に虐げ利用していくという考えが見られます。
この「弱者を虐げる」という考え方を極限まで尖らせたのがヨスガです。
ヨスガは弱者は当然のように殺します。
強いもののみの世界を作るうえでは、弱者は使うものではなく不要な存在なのです。
それを表すかのように、千晶は弱者(=マネカタ)の町アサクサを襲撃し、マネカタを殺しつくし、コトワリ開眼のためのマガツヒを奪い取りました。
LAWの隠したところなど微塵もなく、CHAOSのような生かすという考え方すらない。
女神転生が女神転生を皮肉るというような、なんとも女神らしい構造ができているのが面白いです。

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さて、ヨスガについてもう一つ面白いと思うのが、ヨスガ思想を受け入れている悪魔です。
これ、なぜか基本天使なんですよね。
ヨスガの思想はLAWの薄汚れた部分を明確に示した思想ではありますが、ここに共感するという考え方や、悪魔自身の見た目の美しさという部分での自信といったものが、千晶のコトワリへの賛同に繋がったのかもしれません。
嘘と都合のいい言葉を基本とするLAWがけちょんけちょんに皮肉られているのが、こういった悪魔にも現れています。

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さて、ヨスガに関してはこのぐらいで。
次はムスビに行きましょう。

4.ムスビ

さて、今回僕が一番注目していたのがこのムスビというコトワリです。
このコトワリだけ、普通と少し違うのです。
そういった部分をお話していきましょう。

ムスビは主人公の友人、勇が生み出したコトワリです。
絶対的な孤立主義を説き、他人とのかかわりを拒絶する思想です。

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この思想、なぜかLAWやCHAOSとはかけ離れた位置に存在しています。
というのも、元となるメシア教、ガイア教は群れていることが前提になっているからです。
そして、シジマやヨスガとも違い、この思想には「群れる」と言うことに対する否定感情があります。
メガテンにおける宗教の持つ、神という実態存在が人々を集めるというメガテンで最も手っ取り早く権力を手に入れる方法を、勇は早々に捨てているのです。
これは女神転生の中でもかなりいびつな思想であると言えるでしょう。

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では、なぜ勇のこのような思想が生まれたのか。
根源はどこにあるのか。
答えはすごく簡単で、現代社会そのものなのです。

現代社会では、かねてより隣人との関係が疎遠になっている、ということが問題視されてきました。
一種の社会問題であるわけです。
お互いに隣の部屋に住んでいる人の名前も知らず、お互いに顔を合わせてもあいさつ程度の関係しか持ち合わせない。
そういった関係が、団地社会が発展しニュータウンが設立する中で段々と一般化していきました。
社会学における災害現場の問題提起の中には、この疎遠さが故に緊急時の避難に影響が出るとまで言われるケースもあります。

さて、そんな問題提起がされる中、2000年以降になるとネットが急速に発展することになります。
人々は現実の距離すら乖離したネットコミュニティの中に自らを落とし込んでいきます。
このコミュニティは「ペグ・コミュニティ」(Bauman:2000)と名付けられ、脆く関係性の薄いものとされてきました。
要は責任感があるような難しい関係じゃなくていいから、簡単に趣味を共有できて、離れたいときに自由に離れられるような距離感を、人々は求め始めたのです。
趣味を共有するだけのコミュニティが偏在している「島宇宙」といった概念にも、そういった脆いコミュニティの考え方が示されています。

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まさにムスビの思想はこれを極限化したものと言えるでしょう。
周りの人間は危害しか加えない。
ならばそんな奴らは消し去って、無害な奴とお互い干渉しないように生きていけばいい。

ボルテクス界という悪魔がはびこる世界の中で、苦しい体験をした勇だからこそこんな思想が生まれたと考えられます。
そして彼は実際に自分の殻の中に閉じこもり、邪神ノアとして力を使うことになります。

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この思想の面白い所は、普通に考えれば異常すぎるというのにも関わらず、なぜか腑に落ちるところがある点だと思います。
そもそも我々は一人では生きてはいけません。
大なり小なり他者との関係を持たなければ、確実に死んでしまうほどに社会というものが必要となっているのです。
それを無視した孤立社会というものは、もはや緩やかな絶滅と同義です。
明確に間違っていると言えるでしょう。
そもそもカグヅチ塔の思念体が「ムスビなら変わらず好き勝手出来る」と述べている時点で、ムスビの徹底した孤立主義を誰も理解できていないような気もするのですが…(個人的にはこの好き勝手やるという意味合いは、従来のCHAOSに近いものがあると感じています)。

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ただし、我々はこのムスビを正面きって否定することができません。
それは、誰もが社会に対する煩わしさを持っているからです。
自分の思い通りに事が運ばなくてイラッとしたこと、ありませんか?
そんな少しのイラッの気持ちも、積もり積もればムスビのような思想になってしまうと僕は思います。
社会の本質性を孕んでそこに言及しているからこそ、ムスビは他のコトワリと明らかに違う上に厄介な存在でもあるのです。

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ちなみに、勇の周りには味方となる悪魔が明確に表現されていません。
勇と出会うのは基本アマラ経絡であり、出会うボスもムスビへの共感は明確には見せていません。
一応アマラ経絡の悪魔を見る限りは、幽鬼や外道などが味方に付いているようですが、作中ではムスビの悪魔として表現されてはいないので何とも言えないです。
実際にセリフなどからわかるやつらで、ムスビを信仰しているのはアマラ経絡内やボルテクス界の思念体がほとんどです。
思念体が旧世界の人類の意思として出現しているならば、現代社会的な性質を持つムスビに共感することもうなずけます。
そして悪魔が勇本人に味方しないのも、勇自身の孤立主義が表れているようにも感じられます。

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さて、ムスビに関してはこのぐらいで。
まとめにいきましょう。

5.終わりに

いかがでしたでしょうか。

このコトワリ、初めは「LAWでもCHAOSでもないし、そもそもLAWとCHAOSの軸すら壊した外道な思想」と思い込んでいましたが、中をひも解いてみると、今までのメガテンが汲んできたものを取り込んでいて面白いなと感じました。
そんな中で、新しすぎるムスビの思想があったことも、真3が型破りな作品だと感じる一つの所以なのかもしれません。

そんなコトワリ、どれを追うかはあなた次第です。
今ならPC、PS4、Switchでリマスター版が遊べるので、気になる方はぜひ手に取って、その狂った思想を肌で感じてみてください。

さて、次回の記事は今のところ未定です。
とりあえず真3クリアして色々書きたいなぁと思っています。
あと受胎の話も書きたい。

そんなこんなで今回はここまで。
お休みの間悪魔に喰われぬよう、お気を付けください…。

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