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【感想?レビュー?】ファミコン探偵倶楽部 笑み男 彼の笑顔は誰のために(2/2)

※本記事は、「【感想?レビュー?】ファミコン探偵俱楽部 笑み男 彼の推理は誰のために(1/2)」の続編にあたるものです。
前記事の内容を前提としてお話していくので、必ず前記事を読んでからお読みください。
また、本記事は「ファミコン探偵俱楽部 笑み男」の重大なネタバレが含まれます。
必ず全てクリアしてからお読みください。

前記事は以下リンク参照↓

こんにちは、なるぼぼです。

さて、前回色々語ってきた「笑み男」ですが、今回では本作の核心に触れるとともに、本作が何をしたかったのか、そして何をもってして賛否両論になるのか、本作の凄い点はなんだったのか、そういったことをまとめた総評のようなものをお話していきます。
本当に説明が難しいタイトルではあるのですが、自分なりに説明できればとは思いますので、お付き合いよろしくお願いします。

前回に引き続いて、今回もネタバレ注意です。
特に、今回は作品の根幹に触れるため、必ずクリアしてからお読みいただくようお願いいたします。

それでは早速行きましょう。


1.ミノル

さて、今までは「ファミコン探偵俱楽部 笑み男」についてお話してきましたが、ここではクリア後に登場する「ファミコン探偵俱楽部 ミノル」のお話をしていきます。

クリア後、空木先生からの電話から登場するのが「ファミコン探偵俱楽部 ミノル」。
本編の裏であった18年前の事件の真実、都市伝説「笑み男」の裏に会った物語、そして今回の事件の裏で会った2人の人間の出会い、それらが空木先生の口から「都築 実の体験したこと」として語られます。
実は家庭内暴力の問題を抱えており、家出した時に妹「えみこ」を父親の行動によって失ったことで父親を撲殺してしまい、少年院に入っていました。
生前の妹と一緒に笑顔の書かれた紙袋で遊んでいたことから、都市伝説「笑み男」が生まれます。

彼は妹の死をなかったことにし、「泣いている女の子=えみこ」として、「えみこを笑顔にさせるために動かなくてはならない」という行動概念に取りつかれます。
轟モーターズではまじめな好青年として働きますが、18年前の事件の被害者である橋爪綾香と出会い、一緒に逃げることを決意し退職してしまったことで、また狂いだしてしまいます。
父親と綾香を殺してしまったのです。
彼は綾香=えみこと認識していましたが、最後に拒絶されたことでえみこでないことを認識し、綾香も殺してしまいました。

その後、彼は自分の口を板金ばさみで無理やり開け、常に笑顔でいられるようにしました。
そして、笑顔の紙袋をかぶり、「かわいそうな女の子がいたら、面白い顔の袋をかぶって近づこう 永遠の笑顔をあげるんだ」という信念を持つようになります。
これが、18年前の連続殺人事件の真実でした。

久瀬兄妹に対しては、中学生の誠を「むかしのおれ」と認識し、同じ空間で生活するようにします。
誠は記憶喪失となっており、「お前は俺だ」と実に言われていたことで、現実世界では都築実として生活していました。
本編終盤では久瀬刑事の栞で記憶を取り戻しますが、それまでは実として動いていたことになります。
一方の実本人は佐々木君の事件後、久瀬刑事を再度「えみこ」と思い込み、彼女に接近しようとしていました。
しかし、過去に実を知っている久瀬刑事は彼を兄を奪った張本人と知っているため、復讐の機会を狙っていた…ということになります。
結果、実は殺害され、誠は記憶がよみがえった、というわけです。

ここまでが、実に起きたことの真実です。
実は、あくまで「(死んでいるのに)えみこにあいたい」だけであって、彼もまた、過去に囚われた人間のうちの一人でした。
空木先生は、「彼は被害者であるが、殺人を犯したことは罪だから擁護できない」としたうえで、彼の動機は「えみこに会いたかっただけだった」と告げます。
そして、プレイヤーに対して「君はどう思う?」と問いかけ、「ファミコン探偵俱楽部 ミノル」は幕を閉じます。
本作では、犯人の動機を伝聞にして敢えて最後に持ってくることで、「犯人の意図はこうだったが、この事件の一連の流れを見て、君はどう思うのか」という、事件の立ち位置や重みをプレイヤーに投げかけてくるのです。

「ファミコン探偵俱楽部 ミノル」では、中盤以降アニメーションで話が進んでいきます。
プレイヤーがコマンドを選択する時間はありません。
これは、空木先生による伝聞のため現実的に介入不可能な時間軸を表現しているだけではなく、「自分たちにはどうすることもできない」「実の狂気を癒すことはできない」という無常さを示しているとも言えます。
実は時間と共にどんどん狂っていきますが、えみこの死から始まったいくつものボタンの掛け違いに対して「プレイヤーは何をすることもできない」という表現を、アニメーションというやり方で見せています。
操作できるアドベンチャーゲームだったからこそ、「介入させない」という視点でゲームを見せているのは見事です。

さて、本作のテーマに立ち戻ってみましょう。
僕は、本作は世間に凶悪犯として名を遺すであろう故人「都築実」をプレイヤーはどう解釈するのかという問いかけを基にして、プレイヤーに推理ゲームの各キャラの社会的な立ち位置と背景像を問うことが、最大のテーマであると思います。
実の行ったことは犯罪なので許されませんが、環境の影響で狂ってしまった彼を救うことは、全くできなかったとは言い切れません。
轟モーターズで働き続けていれば、彼が狂わなかった未来も見えたのかもしれません。
こういう点で見れば、彼に同情の余地があることから、彼は必ずしも「犯人というアクターに囚われる存在ではなかった」と言えます。
しかし、本作は「過去のことで救うことができなかった」という事実を見せつけてくるのです。
つまり、彼は「犯人という役割に縛られる存在ではなかったが、結局犯人になってしまった」ということなのです。

これと似た問いを投げかけられたのが、本編での終盤、轟社長に否定され探偵の意義を問う主人公です。
彼は「探偵として自分は何を追い求めないといけないのか」ということに苦悶します。
結局それは「真実」なのでしょうが、轟夫妻にとって真実は不要なものであり、実のいる生活だけが重要なことでした。
だから、彼は「探偵という役割」がぶれたことに苦悶したのです。
これは、最後に「犯人という役割がぶれた」実に酷似しています。

主人公は最後に「探偵は真実を見つける役割がある」と考えますが、実にとって真実は必要だったのでしょうか。
こうした点から、「推理をする事件のアクターが、必ずしも役割に縛られるべきではない」とプレイヤーに問題提起する点は、推理モノに一石を投じるという点でとても面白いです。
「ファミコン探偵俱楽部 ミノル」は、こうした点で必ず必要であり、本作を賛否両論にさせる起爆剤だと思います。

2.本作の真意(ネタバレ注意!)

さて、最後になります。
個人的な総評をまとめながら、本作の意義や真意を考えていきましょう。

僕は、このゲームに関しては「ゲームとしては駄作に限りなく近い作品」だと思います。
伝えたかったことのために本編のストーリーはぐちゃぐちゃ、リッチだけどどこか古めかしいシステム、それらは今やるアドベンチャーとしてはなかなか受け入れられないことです。

しかし、本作はゲームの意義としては強烈なものを持っています。
僕はゲームに対するテーマ付けが強い作品ほど好きになるのですが、本作はそれがとてつもなく固まっていました。
それが「推理ゲームのアクターの立ち位置」であり、「犯人という存在の難しさ」というものなのでしょう。
そして、何より本作は、この問題提起と描写を「任天堂が行った」ということがとても重要です。

任天堂は、そこまで凄惨な描写を出すことなく、社会的なテーマを前面に出すこともなく、ゲームを制作してきています。
一部タイトルでは社会的風刺があることもありますが、それもわかりづらくしていたり、ちょっとしたテキスト程度にとどまっています。
しかし、本作は「笑顔を作るために板金ばさみで顔を切る」凄惨な描写を露骨に出してまで、テーマを伝えようとしたのです。
ここまで強気でメッセージ性のあるゲームを、任天堂が出したということは、ものすごく重要なことなのではないか、と思います。
そして、そのメッセージは、犯人を見て「同情する余地もあるよね」という単純な過去を憂うだけではなく、「犯人とはなんなのか、探偵とはなんなのか、推理ゲームとは何なのか」という、推理ゲームが持っている根本的な問いをユーザーに投げかける、というものでした。
そのメッセージ性を、僕らはしっかり受け止めて、自分なりに考えていく。
それが、このゲームの真意であり、もっとも面白い部分なのではないか、と僕は思います。
最後に空木先生が主人公に向けて言う一言、「君はどう思う?」にその全てが詰まっています。

また、こうした考えさせる展開を作るために、あえて「ミノル」を事件解決後に配置し、一般的な推理ゲームのような晴れやかな気持ちを与えさせないというのも、新鮮で面白い試みです。
実の人生は明るいものであるとは言えませんし、最後死ぬのは本編で知っているので、明らかに心地いいものではないんですよ。
それをやったうえで、悶々とするプレイヤーに「君はどう思う?」の一言が降ってくるというのは、めちゃくちゃ複雑な気持ちになるんです。
今って清々しく終わるゲームが多いですし、任天堂なんて特に清々しく終わらせるのが鉄板だと思っていたので、こういうのはめちゃくちゃ意外で新鮮でした。

色々話してきましたが、「推理ゲームとしては駄作だが、任天堂の作品、また考察できる作品として非常に面白いゲームである」というのが本作の結論になります。
やっぱりうまく説明できた気がしませんが…。
クリアした人と色々話してみたくなるタイトルですね。

3.終わりに

いかがでしたでしょうか。

なんと2部に渡る長編になってしまいました。
凄い複雑な気持ちで終わったのもあって、お話しするのが非常に難しいタイトルだったと思います。
こういうゲームが将来「カルトゲーだ!」とか言われるんですかね。
僕はすごく面白かったですが、本当に人によって評価が変わるタイトルだとも思いますし、クソゲーという人の気持ちもわからなくはないので、凄い作品だと思います。
なんか語る機会があれば話してみたいですね。
もうあらかた文章で話してしまいましたが…。

それでは今回はこの辺で。
ありがとうございました~。

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