名著「自由と規律−イギリスの学校生活−」

この本は岩波文庫さんのTwitterで紹介されており以前から何度かタイトルを目にしていたとは思うのですが、最初は副題に気がついておらず、素晴らしい本のようなので機会が有れば読んでみようくらいに思っていました。
今は本当にこの本に出会えて良かったと思っています。
単にイギリスのパブリックスクールについて書かれているのではなく、その真髄である人間教育、子どもたち若い人たちを「育てる」ということがどういうことなのか、個として社会に対して責任を持った人間になること等が最重要課題とされており、その前には学力や成績などは全く意味を持たないという、イギリス伝統の考え方とそれに対する畏敬の念が込められています。

著者の池田潔氏がイギリスで学ばれたのは既に100年近くも前のこととなりますが、驚くことに多くの点において現在のパブリックスクールにもその精神は引き継がれており、ロンドンの街でたくさんのビクトリア時代の建物がいまだ現役で使われているのと同じく、イギリスは100年経っても200年経っても変わらないイギリスであるという頑ななまでの強さと、信頼感を覚えました。

とはいえ、さすがに今は少々違って来ていますよ、と思った点としては何よりもまず体罰は無くなっているということと、やはり時代の波に押されて学力は無視できない大きな要素となっているので、学力の高い者がちやほやされるようなことこそ無いものの、学校自体が有名大学への進学率などで世間から評価されるのは否めない、従って学校側もそれ相応のポジションを維持していかなければならない、ということはあります。子ども達はパソコンやスマートフォンを持っているし、冬も暖かい快適な部屋で暮らしていますが、逆に言えばあとはほとんどこのままなんじゃないかと思いました。
校長先生の権限が非常に大きく、また大変な人格者であり、スクールカラーを決める重要な人物であること。ハウスマスター(寮の先生)の役割と子どもたちに対する情熱、上の年齢の生徒が下級生の行動を助け・管理する伝統。学習も含む個人の事情に優先するスポーツマンシップ(=寮生としての属性)。そして規律。

私は、この本を読んで感動して息子をイギリスの学校に進学させたのではなく、また息子がパブリックスクールに入学したのもいくつかあった候補の中からたまたまだったので今頃読むのは順番が逆なのですが、もしこれからお子さんのパブリックスクールへの留学を考えてらっしゃる親御さんには必読の書だと思いました。息子を通して良さを感じていることの全てが書かれています。もちろん、本書の意図としては「イギリスはこうだ」というのみならず、教育とはこうありたい、このように教育してはどうか、このように学んではどうか、という大きな一つの問いかけだと感じており、何もお子さんがイギリスのパブリックスクールに進学する親だけでなく、お子さんがいらっしゃらない方であっても学生・生徒の当事者であっても一読に値すると思います。是非。おすすめです。