『明治乙女物語』執筆裏話⑤しましま

小説の登場人物のイメージは読者一人一人のものなので、このキャラはこの人をイメージして書いたとか、作者はあまり言わないほうがいいのかな、とも思います。
ただ、『明治乙女物語』の主人公二人に関してはネットでもずいぶん広まっているみたいなので、一度ちゃんと書いておこうと思います。
じつは出版業界にも結構そのグループというかカテゴリーのファンの方が多いみたいで、よくそのことを聞かれるんです。それに答えるのが面倒くさいわけではなく(むしろ喜んで話すんですが)、執筆したのはもう3年以上前なので記憶が曖昧で、ちゃんと整理しないと自分でもうまく説明できない、というか結果的に嘘ついちゃったかもという場面もあったので。

以下、閲覧注意。
読みやすさとか考えず一気に書きます。オタクが早口で語ります。
興味のある人しか読んではいけません。興味のある人でも推奨しません。読むなよ、絶対読むなよ?
では始めます。

主人公の野原咲と駒井夏の二人にそれぞれ歴史上のモデルがいることは他の記事で書きましたが、やはり生きて動いている姿を見ることはできません。いくら資料を読んでも、想像には限界があります。そこでイメージしたのが、当時現役のアイドルだった℃-ute(キュート。アクセントは語尾を下げず平板。「帽子」と同じ)の、矢島舞美さんと中島早貴さんでした。現在、℃-uteはすでに解散して、お二人とも女優として活躍されています。
℃-uteをイメージして書いたというネットの記事がありましたが、℃-ute全員ではなく矢島・中島の通称「しましまコンビ」だけです。じつは、執筆当時は℃-uteをあまり知らなかったのです。でも、「しましま」だけは知っていたんです。
なぜそんな現象が起きたかというと、そもそも「しましま」を知ったきっかけが「ハロー!SATOYAMAライフ」という番組だったんですね。ハロー!プロジェクト(モーニング娘。などが所属する事務所の複数のアイドルグループのくくり。通称ハロプロ)のアイドルが農業体験をするという深夜番組でした。
なぜその番組を観ていたかというと、私が「ももち」こと嗣永桃子さんのファンだったからです。「嗣永桃子」というキーワードで録画予約をしていたら、同じハロプロつながりで「ハロー!SATOYAMAライフ」が録画されてるんです。ただ、ももちは出ないんです。そのかわり中島早貴ちゃんが毎回出ていたんです。
そのときの中島早貴さんのイメージは「後輩の面倒見のいい、しっかり者のお姉さん」でした。
ところが、何回目かで矢島舞美さんがロケに初登場したとき。たしか中島さんが「リーダー」と呼んでいたので、同じグループであることはわかりました。印象的だったのは、それまでしっかり者のお姉さんという雰囲気だった中島さんが、すごく安心しきった様子だったことです。リーダーがそこにいるだけで安心しているように見えました。「ちょっとリーダーなにやってんの」みたいなことを口では言っているけど、この人はリーダーが大好きなんだろうなと思ったものです。
リーダーはリーダーで、中島さんに仕切りを任せて、自分は後輩の子たち(宮崎由加ちゃんがいたのは覚えてる)が前に出ていけるよう、適度に出たり引いたりしてサポートしているように見えました。
二人がそういう役割分担を自然にこなしているように見えて、それがとても印象に残ったのです。ベタベタする感じでもなく、端と端にいても横目でチラッとおたがいを確認できればそれで安心できるような、ひとつの理想的な信頼関係に見えました。
で、ネットでその二人のことを調べたら、やはり「しましまコンビ」という特別な名前で呼ばれていたので、やはりファンの人にも何か感じるものがあるんだろうなあと思いました。『明治乙女物語』の作中に小ネタとして使わせていただいたエピソードは、このときに調べて知ったことがすべてだと思います。一晩ネットを漁れば、かなり細かいエピソードまで拾えました。調べ物は得意なのです。

ただ、そのときはそれで終わりでした。特に℃-uteのファンになったわけでもありませんでした。
それからしばらくして(たぶん一年以上経って)『明治乙女物語』の構想を練りはじめたとき。
主人公は二人にしよう。一人は女子教育の理想を体現したようなキャラにしよう。知育・徳育・体育だから、頭が良くて人柄も良くて身体能力が高く、ついでに美人。ただ、完璧すぎるとキャラとして親しみが持てなくなるから、ちょっと「天然」な性格にしよう。
そうなると、もう一人の主人公は、その「天然」の部分を補うしっかり者のサブリーダータイプがいい。
そこまで考えたところで、「しましまコンビ」がぶわっと記憶の隅から飛び出してきて、ガチャンと主人公のイメージにはまったのです。このとき、本当に頭の中でガチャンという音が聞こえました。それぐらいぴったりはまったのです。これはいけると思いました。
脇役のキャラが濃いので、主人公二人はそれに負けないぐらい魅力がなければいけない。この二人の関係性に物語を引っ張るだけの魅力がなければいけない。「しましま」のあの感じならいけると思いました。

さて、そこで「しましま」のことをもう一度調べなおすことは、あえてしませんでした。余計な情報を入れず、その時点での自分のイメージだけでキャラづくりをしました。調べてみてイメージと違う部分が出てきたら、せっかく良い感じに定まったキャラのイメージがぶれてしまうと思ったのです。
なので、中島早貴さんが「後輩が苦手」キャラを自称されていたことなども後で知って、そんなイメージはまったくなかったので(上記のとおり面倒見のいいお姉さんというイメージだったので)かなり意外でした。
とはいえ、書き終えてから「しましま」のことを改めて調べてみたら、ほぼ最初のイメージどおりだったように思いました。主人公それぞれの性格は歴史上のモデルの要素も取り入れているので(特に駒井夏はモデルの資料が豊富だったので)当然そのままではありませんが、二人が会話しているときの雰囲気などはほとんど違和感ないなと。人当たりの良い咲が夏にだけ微妙に当たりが強くなる(汽車に乗ったことがないのをからかったりする)のが書いていて不思議だったのですが、これ正解だったのでは、などと思いました。

ともかく、「しましま」のおかげで『明治乙女物語』の主人公たちはとても魅力的に描けたと思っています。書いていくうちにテーマが大きくなりすぎて、収拾がつくのかと心配になったのですが、魅力的な主人公が物語をラストまで引っ張ってくれました。
そんな「しましま」への感謝を込めて、物語の終盤に、矢島舞美さんのファンなら必ず知っているであろう小ネタをぶっこんだわけです。

ただ、主人公に「しましま」をイメージしたことは、本当は言うつもりはありませんでした。蒼井優さんがアンジュルムのファンを公言するのとは違い、こちらは無名の新人作家です。人気アイドルの知名度を利用するみたいでかっこよくないし、ファンの方も良い気持ちはしないんじゃないかな、と思っていたのです。
それがどうして言ってしまったかといえば、松本清張賞の特殊性(おおげさ)にあります。松本清張賞は、たぶん首都圏在住者の場合だけですが、受賞が決まったその日に記者会見するんです。その日の夕方まで作家志望者の一人でしかなかったのに、いきなり選考委員の先生方と顔合わせをして、記者会見場に引っ張り出されるわけです。頭が真っ白なんてもんじゃないです。
その記者会見で、男性の作者が女性の主人公を書くのは難しかったのでは?という質問をされました。最初は、歴史上のモデルがいたのでその人物の資料を調べて云々と当たり障りなく答えていたのですが、質問した人の顔が明らかに納得してないんです。事実の半分しか話してないんだから、そりゃそうです。今ならうまく隠し通せるかもしれませんが、その時は全然余裕なしです。これは言うしかないと思って、「資料だけでは限界があったので好きなアイドルをイメージして……」と言ったら、会場が「大ウケ」しました。誰をイメージしたのかと問われたので、もう正直に℃-uteの矢島舞美さんと中島早貴さんですと答えたら、それが広まってしまったんですね。そりゃ広まりますわね。やっちまったなと思いましたが、後の祭りです。
でもそれが巡り巡って、どうやらファンの方を通して「しましま」御本人まで伝わったみたいで、しかも矢島さんは『明治乙女物語』を読んで感想までブログに書いてくださったのです。これがまた、すごく素敵な感想だったのです。その頃にはすっかりファンになっていたので、オタ冥利に尽きるとしか言いようがなかったです。記者会見で喋ってよかったです(°▽°)

ちなみに、「しましま」のどっち派なのかとよく聞かれるのですが、いまだに決められずにいます。こういう質問には明確に答えたほうが面白いと思うので、一生懸命考えているのですが、どうしても決められません。
そうして悩んでいるうちにモーニング娘。の横山玲奈ちゃんという新星が現れてしまい、さらにアンジュルムも箱推しせざるを得ないしで、現在、私の中で勝手にアイドル戦国時代が繰り広げられています。

ところで、私が「しましま」を知るきっかけになった「ももち」こと嗣永桃子さん。ある意味、私に松本清張賞を取らせてくれた恩人といっても過言ではありません。ありません(大事なことなので二度)。
その「ももち」は、すでに芸能界を引退されています。
引退コンサートがあったのは、2017年6月30日の夜。
その同日同時刻、第24回松本清張賞の贈呈式がありました。
歴代の松本清張賞受賞者の中でも、推しの引退コンサートと自分の贈呈式がかぶってしまったのは、たぶん私ぐらいだと思います。

いや、基本的に私は在宅ヲタ(コンサートや握手会などの"現場"に行かないファン)なので、別にいいんですけどね。もともと行くつもりはありませんでしたし。本当です。
ただ贈呈式の間、「今頃ももちは最後のステージに立ってるんだなあ……」などとふと考えてしまい、一瞬、上の空になったりしたことは事実です。もしも失礼があったとしたら、それは本当に申し訳なかったと思います。ですので、ちゃんと謝ります。
許してにゃん!

【完】


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