★《続・読書余論》Richard W. Bulliet著『The Camel and the Wheel』1975年刊

 こんかいの《続・読書余論》は、有史以来のらくだ(フタコブラクダとヒトコブラクダ、およびそのハイブリッド駱駝)の馴致および20世紀前半までの利用について、古代語文献を含む、ほとんどあらゆる資料を博捜してまとめてある、とてつもない労作です。

 サハラ砂漠の石刻絵や、中東各地の遺跡レリーフ、古代貨幣の図案等、いやしくもラクダが描画されている図像資料も、集めに集めているようです。ラクダ用の鞍の構造やハーネスの地域差を調べるため、1960年代に本人が旅行して撮影した風俗写真も載せています。

 これほどの決定版資料(ただし日本についての言及は無い)が、どうして今日まで和訳されていないのか、正直、さっぱり分かりません。

 中世イスラム圏の広い地域には、動物に曳かせる荷車が、ありませんでした。そこでは荷物はラクダが「駄載」したのです。

 兵站物資の輸送手段として、唯一「ラクダ駄載」しかなかったのにもかかわらず、イスラム軍は、中東と北アフリカの広い地域を征服して、さらにはスペインにまで侵入したのです。

 どうしてそんなことが可能だったのでしょうか?

 本書はそんな歴史上の一大秘密に迫るヒントを豊富に提供してくれる、貴重な業績です。

 じつは、ベドウィンが繁殖技術を秘伝化していたヒトコブラクダしか、輸送手段がありえない地形・気候というものがあり、そのおかげでメッカは隊商宿として栄えながら、ビザンツ帝国やイエメンからの侵略を免れ、むしろ逆に、全中東を征服できたのです。

 全地形輸送手段とはどういうものかを、基礎から考えてみたい人には、この本は必読だと思います。
 そのエッセンスを、つまみぐい式に、手短に、抜き書きしてみました。

 例によって、《旧・読書余論》からもテキストをかきあつめて附録しています。併せてお楽しみください。

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46,325字

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