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読書感想文

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海外文学や現代文学の感想文。
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2024年5月の記事一覧

ミシェル・ウエルベック『セロトニン』を読む 予言の書or中年男の愚痴垂れ流し?

 ミシェル・ウエルベックは、小説『服従』が2015年に起きたシャルリー・エブド襲撃事件(風刺新聞の編集者等12人が殺されたテロ事件)を予言したとして、日本でも有名になったフランス人作家です。  『セロトニン』も、予言の書だと言われています。反政府デモ「黄色いベスト運動」を予言する話があるからです。ウィキによると、このデモには農村や都市周辺部の住民が参加して、燃料税の削減や最低賃金の引き上げ等を求めているとのことです。  確かに小説内では、農民の抗議運動が描かれます。フラン

2024年4月読書記録 川端、太宰、ドストエフスキー

マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では』(東京創元社・酒寄進一訳)  ドイツミステリーの翻訳者として有名な酒寄進一さんが編集した短編集です。日常に忍び寄る不安や孤独、悲しみ。それらの感情が引き起こす出来事を淡々と描く物語が多いです。リアリズムのまま幕を閉じる話もあれば、薄い壁を越えて、非現実の世界に向かう話もあります。  村上春樹さんの短編には、女性が主人公の作品もいくつかありますが、それと似た雰囲気の作品がこの短編集にはいくつかありました。女性の不穏な気分が世界