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青空文庫

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青空文庫で読める作品を紹介しています。
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#堀辰雄

本が私を育ててくれた 【読書エッセイ】

 母は他人の意見に流されやすい人だったので、子どもの頃、誰かが言っていたという理由で、自分には合わないことをあれこれやらされたものです。いつかひとこと言いたいと思いつつ、言ったことがないのは、「流されてくれて良かった!」と思うことがいくつかあるからです。  その一つが、祖母の家の近所にあった本屋さんのアドバイス。その本屋さんのアドバイスに従って、季節ごとに本を買ってくれたのです。今でもたまに話題になるようなロングセラー本が多かったのですが、どれも夢中で読みました。  母は本を

2023年6月 読書記録 余計者、プロ文、堀辰雄

遅くなりましたが、先月読んだ本のまとめです。 高橋睦郎『漢詩百首 日本語を豊かに』(中公新書)  森鷗外の小説がきっかけで、江戸時代後期の文人画家、蠣崎波響が夫の先祖と知りました。文人画家というだけに、波響は漢詩を作るのも好きで、しかも、波響の漢詩に北大の教授が注釈をつけた本が出版されているんですね(絶版ですが、Amazonにありました)。いつか読んでみたいけど、漢詩の素養がなさすぎる。ーーということで、入門書になりそうなこの新書を読んでみました。  学生時代、漢文が苦手

2023年5月 読書記録 青空文庫篇 横光、檸檬、軽井沢とサナトリウム

嘉村磯多『途上』『崖の下』  この人は先月読んだ葛西善蔵のお弟子さんです。ウィキによると、葛西と嘉村、それに広津和郎、宇野浩二を奇蹟派と呼ぶそうです(奇跡は雑誌の名前。広津はまだ著作権が切れておらず、宇野は代表作が青空文庫になし)。四人のうち、聞き覚えがあったのは、広津和郎だけ。確か芥川の友達。  奇蹟派の特徴は私小説であるということで、自然主義文学の流れをくむのかな。  ただ、嘉村の師匠、葛西善蔵の作品は、正宗白鳥が評したように、私にも「『暗鬱、孤独、貧乏』の生活記録の繰