記憶の欠片の物語
あいつにはじめて会ったのは論文の発表会だった。
わたしはひどく態度が悪かったらしい
(わたしは態度が悪いなんて微塵も思っていないけど)
あいつは緊張してひどく顔を赤らめて登壇して論文を発表していた。
聞いてるやつらなんているのか?
こいつの話を。顔を赤らめ、ひどく真面目に
訛りがでないように緊張しながら自分の論文を発表している。
ここはロンドン。大学構内
わたしはいつも一人きりで行動している。
友達はいるのかいないのかわからない。
わたしはひとりが好きだ。気楽だから。
ところが他人はいつもだれか複数の友人とやらと行動している。
それは楽しいのか?
わたしにはわからない。
それは楽しいのか?
それにしちゃその友人とやらはお前の論文の話なぞまったく聞いちゃいないようだが
(口があいてるぞ。だらしない。理解しがたい内容らしい。残念だ。先を行きすぎてるサイエンスの話なんか理解しがたいらしい。かわいそうに。理解力がないとは!)
一番後ろにの席に座って机に足を乗せて面白そうな話だけ拾い上げて
空想に耽るのはわたしの趣味だ。
こんないい話なかなか聞けないぞ。
人の話に注目を寄せることなど皆無に等しいのだが
…なかなかいいじゃないか。
なのにお前の友人とやらは口を開けてぽかんとしてるぞ。大丈夫か?
お前にはつまらん男たちだ。やめておけ。
釣り合わない。
お前が釣り合わないんじゃない。
あいつらがお前には釣り合わない
論文を発表し終わった。
あまりにすっとんきょうだったらしい
構内はシーンと静まりかえっている。
なんだ。誰も意味がわからないのか?
たった今すごい論文発表したやつがここにいるのに。
苦虫を噛み殺した様子の教授には大ウケだ。
(やられた!て顔してる)
誰も拍手もしない。
おいおい、ここは由緒ある大学だろ?
拍手もなしか?それとも一流といわれてるのは
気のせいなのか?
わたしは拍手をした。
エクセレントだから。
彼の論文は素晴らしいじゃないか。
これがわからないのか?信じられない。
拍手を2回
それから「エクセレント!」と叫んでやった
はっと我に変える構内
拍手をみんなした。
お前にはこの拍手は聞こえていないらしい。
顔を赤らめたままあわてふためいて壇上から降りていった。
お前の友人連中とやらは顔を見合わせて怪訝な顔をしている。
なぜならわたしが「拍手」したからだ
わたしはある意味有名人だ。
「変人」と噂を立てられている
身なりを気にしないし
髪も起きたままのときもあるし
そのくせ構内を我が物顔で歩いている
貧乏人には入れない大学になぜこんなやつがいるんだ?
あいつは誰だ?
あからさまに興味あるように見るくせに話かけられないらしい。
話かけてくるのは教授だけ。
興味はつきないらしいがお前らには用事なんてない。
お前たちとは1秒たりとも用事はない。
用事があるなら今論文を発表した
顔を赤らめ、訛りを隠し、ひきつった笑顔で
発表していたあいつだけだ。
見つけた。
あいつならまともな話ができるかもしれない
お前らには価値がわからないのだろう
お前らにはきっとわからない
こいつの素晴らしさを
いい忘れたがわたしは「貧乏人」ではない。
貴族特有のいやらしいわざとらしいもったいぶった態度がキライなだけだ。
あんなの必要あるのか?産業革命真っ只中なのに?
お前らみんなさきのこと考えろ
時代に置いていかれるぞ。
悠々と今の地位に甘んじてると泣きを見るはめになるぞ。世界はうごいているんだ。時流も読めないのか?
いみがわからない?楽しいだろ?
わたしには友人はいらなかった。
1秒前まではな。
この斬新な論文を発表されるまでは。
※(これはほんとうにうまれてはじめて自分が書いたストーリー。三年まえかな?)
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