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「愛と情熱の山田うどん」を読んだあとのお話

2月20日。空は晴れ渡り、ところどころに膨張した雲があると思えば、風で雲散霧消しているそんな春先。桜の蕾を眺め、「まだ粘り気のある蕾」というどこで読んだかは覚えていない表現が本当かを確かめに、いつも通り霊園を散歩する。

今日、私は山田うどんを食す。というのも、「愛と情熱の山田うどん」という売る気がはたしてあるのかという本を読んでしまったがゆえ、食べないという選択肢がない。日々を過ごしていくごとに、私の中の山田うどんは今日の雲のように膨張していた。 

 
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毎回散歩には腕時計もスマホを持っていかない。そういった俗なものや世間から離れて心を解き放つのが目的だからだ。およそ腹の空きぐあいで12時半くらいであろうというときに、山田うどんへと足を踏み入れた。




駐車上はほぼ埋まっており、トラックが6割、自家用車4割くらいの印象。工業地帯というのもあるが、山田うどんはロードサイドのお友達という本で読んだとおりで嬉しさを覚える。

入口から一番手前の4人がけのテーブル席に案内される。1人なのに。なんというか山田らしい。カウンターや座席、テーブル席もそれなりに埋まっており、以外に栄えていると面食らう思いであった。

席について10秒以内に水が運ばれ、卵やらミニ丼系が今は頼めないと口頭で伝えられる。フレンドリーというかファミリーというか田舎風、地域密着の大衆食堂のような店員さんの雰囲気に、俗世間の汚れにまみれた心が若干現れたのを感じた。

メニュー開く。明らかに値段が安い。おおよそ800円あれば腹いっぱいになるであろうという山田の山田たる所以かとまたもや面食らう。

本で読んだのは「うどん」と「パンチ」というモツ煮込みが定番とのこと。さて、どうにかふたつを食べれはしないものかと思っていると、どうやらパンチには普通のもつ煮込み「白」と、ピリ辛の「赤」がある。これはもしやリベンジ山田かと思われたが、なんと食べ比べセットが790円。うどんをつけて950円というなんとも私を待っているようなメニューが存在した。さすが山田だ。5分ほどメニュー表を眺め、呼び出しベルを押す。以外に混んでいたのもあり、「少々お待ちくださいね」の声が飛ぶ。山田だから許せる。

窓際の席であるために外がよくみえ、トラックの運ちゃんが満足そうな顔で運転席に乗り込んでいた。その手前を作業着を着た太っちょフォルムのいかにも工場勤務の兄ちゃんが、首から水筒をかけ、リュックサックを背負って入店してきた。ああ、なんといい店なのだろう。

頼んだものは3分くらいで来た。三度目の面食らいだ。なんどパンチをあびせてくるのだろう。食べ比べセットは白米、小鉢、もつ煮込み白、もつ煮込み赤、うどんというセットで、腹いっぱいにならなきゃ許さないぞという布陣を敷いている。パンチを浴びせられ、麺を喰らい、色んな意味で殴打される思いであった。

味はいい意味でも悪い意味でも「普通」なのである。逆にそれこそ安心できるというもの。本に書かれた「安い 早い 普通」の文字に偽りはなかった。非常に素晴らしいお店だったと思う。二度目に行くかどうかは分からない。山田うどんへの思いは、今日の雲のように雲散霧消してしまった。

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