小さな癌のものがたり その2 受け止められない

午後に受けたCT撮影も造影剤を使った。一回目と同じ順番に体が熱くなるので「すごいな、会社に戻ったら同僚にも伝えよう。特に睾丸が一番熱くなることを」などと考えていた。この時もまだ大したことはないような気がしていた。
 CTを終えた後の三回目の診察でやはり多血症の疑いが強い、赤血球が多すぎて、放っておくと血栓ができやすくなってしまう。先ずこの後、瀉血で四百ccの血を抜くことになった。血を抜いたら何故赤血球の割合が減るのか不思議に思いながらも指示通りに瀉血を受けた。自分は、注射針が苦手で注射は最低限にしたかったので、これまで献血もしたことがなかった。小さい時にがんばれロボコンの片手が注射になっているキャラクターの着ぐるみが町に来たのが怖すぎてトラウマになっていた。初めて、血液検査以上の血を抜く経験をした。今日は血液検査一回、造影剤注射二回、瀉血の針がうまく刺さらず二回と合計五回腕に針を刺した。まるで麻薬常習者のような腕になっていた。特に瀉血の針は十六番という直径一.六ミリの太い針で刺す時痛かった。瀉血が終わり、医師と面談して、一週間後の三月二十二日に再度血液検査と瀉血の予約を入れた。また16番を刺されるのかと鬱な気分になった。会計が終わったのは十八時半だった。ケーキ屋の閉店時間も過ぎていた。一日の目まぐるしさから、疲れもあり、真っ直ぐ家に帰った。この時は何か前進したような気持ちを持っていたと思う。

 帰宅後、子供と一緒に食事を取った。医師の説明では、食事、運動特に制限はない、普通通りに生活して良いとのことだった。昼食を殆ど食べていないのでいつもよりよく食べた。何か体に異常があるような気がしなかった。

 食事後疲れたので二階で休むことにした。コロナ禍が始まってから、息子用の四畳半の部屋を在宅ワーク室兼寝室にしている。息子は小四だがまだ一人で寝ることができない。というか昼間でも一人で二階にいることもできない怖がりなので、ずっと物干し部屋になっていた。自分も小四でやっと一人部屋で寝るようになったので大して変わらないが。もう少ししたらこの部屋も息子に明け渡すのかもしれない。布団で横になりiPhoneで「多血症」について調べ始めた。赤血球の割合が増えすぎるのが多血症で、一時的なものには、ストレスにより発症するストレス多血症、無呼吸症候群などによる血中酸素濃度低下、癌や潰瘍など造血機能以外の理由で赤血球が増える二次性多血症がある。自分が疑われている真性多血症は、白血病のように骨髄の造血機能に異常が起きてしまう血液の癌の一種だという。現在完治する治療はなく、死ぬまで治療を続けなければならないと。相当の出費も待ち受けていそうだ。自覚症状は、背中がだるいだけだし、食欲も全然ある。そんな病気名前も知らなかったし、普通の人は聞いたことない病名だと思う。ちょっと不調の原因知りたかっただけなんですけど、、、 いきなり癌って、、、 また真性多血症を発症する確率は五万人に一人らしい。野球の打率にすると二毛、五万回振ってヒット一本。そんな貴重な経験できるなんて、いやいや宝くじだって年賀状の抽選だって一番下の等しか当たったことないのに。病院を出た時の前向きな気持ちは一気に削がれ、みるみるうちに気分が重くなってきた。これからどうやっていけばいいのかと。

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