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鳥籠から見た世界は狭くて美しい

(鳥籠のイラストは『いらすとや』様のをいただきました)

 世の中には何かに秀でた人間が一定数存在している。中にはその才能を活かしてプロのスポーツ選手になったり、画家やミュージシャンになる人もいるだろう。
 私はそんな『特別』になりたいと、幼い頃から思っていた。
 しかし残念ながらスポーツはできないし絵だって書けない。加えて歌もあまり得意ではなかった。
 だから私は想像の世界で何か特別な人間になることにした。みんなから尊敬されたり、チヤホヤされたりして楽しむのは良い気分だった。その世界では誰もが私を見て「あなたを尊敬しています、愛してます」と、私を好み、好きなだけ愛してくれる人しかいなかったからだ。

 だがそんな想像の世界にも終わりはやってきた。
 ある日想像に耽っていると、ふと気付いたのだ。
 私がいなくなったらこの人たちは私を忘れて、別の人のところへ行くのではないか?
 私がどれだけ彼ら彼女らを大切にしても、向こうは同じくらいの愛情を返してくれない。

 全てが滑稽に見えた。私は自分だけが特別になったつもりで、実際は私以外の特別を考えていなかっただけだったのだ。仮に私がトラブルを起こしたら、向こうは何か反応してくれるのかもしれない。
いや、それこそ私の想像だ。現実は、私のことを心から慕ってくれる人間なんか100人に1人いるかどうかなのだから。
 想像した私の力なんて、その世界全体で見たら広い海に一粒の砂を混じらせているだけだった。
 その日から私は特別な自分を想像することをやめた。

 想像の世界にも、私という鳥が鳥籠に入っていた。私はそこから世界を見た。空は青くて美しく、遠くには緑色の山が見え、外にいる人間は、全く見えなかった。その世界は私の全て。外を知らない私の全て。

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