鬼（ペンギン村に陽は落ちて）　　川柳140句

Ⅰ．明日の明日の夢の果て　　三十五句

クロフツの時間の涯てを嗅ぐ小鳥

尿瓶無き世ひろがるネオ・ダダイスト

絵の意味がイースト菌である限り

ヨーロッパ鉄道上のちんこ揺れ

雲梯の雲のかたちを成す太宰

オスカルの世界すべての妙義山

ペンを訊く盛者必衰帽かぶり

駅伝を反小説に書く仕事

バロウズの火星を指して眠りあう

偽語による此の世の構図うつくしき

熱気球構造学者ふたり乗り

円楽のスノーボードが割れて今朝

夕陽落ち小野寺さんの袈裟固め

白い日に章魚の名前をつけ直す

メーテルが現人神の酢に漬ける

金槌をサブリミナルに持つ男女

明確のホットドッグを塗り潰す

マタンゴの島を滋賀県民が出る

てにをはを付ける屋内スキー場

ラジオ組む徳島県に或る女

烏賊を煮てネット句会の雪煙

優曇華のエッセイストが叩き割る

父の名を父に返してはくちょう座

手刀もてヒンデンブルク号を衝く

さびしさに安保反対するロープ

無の点が胎児のなかの宇宙成す

象の居た県庁跡にハジキ埋め

ペンギンの解脱どこより遠い渦

チョリソーに誘拐事件ふと終わる

金星に創造された肉団子

モヤる世と秋元不死男死後の世に

豆腐穴うがつロシアンルーレット

サイゴンの電波を享ける傘男

新月をマイク・タイソン造語して

オットーの終末の日に時間蝕

Ⅱ．牙の時代　　七〇句

倭の国に反小説のバター焼き

ニュートンがげらげらと泣く大和の書

焦点をデアゴスティーニ借り結ぶ

ビルのなか尾崎放哉祈祷して

とり・みきの無銭旅行につかう箸

表にして寺山セツのピストルズ

釘付けて糺の森の生活者

アズテック・カメラの意味で無窮する

ナ行抜きドクトル・ジバゴ書き写す

妻の名をキリマンジャロに換えて闇

ひとり引くたまごクラブのアーチェリー

夕焼けの街に直腸干し忘れ

バカボンとバカボンの師の水泳部

詩語涸れて匂宮のごぼう裂く

マイルスの仮装が夜に掴まれる

分数の田村正和死してより

びらびらと旅の仲間に聴いて書く

母子像が止まって見える飛鳥山

豆植えて連隊長のひどい簿記

にんじんを自由律句に削りつつ

苦の世界たまご市場に妻眠る

ルワンダの黴をうしなう双羽黒

腰元のアンドロメダ忌零時過ぎ

手羽先がスター・ウォーズに在りながら

滴化して贋の七円切手貼る

獣神の肉体ほろぶゆりかもめ

板垣のエンドロールに炭を焼く

射精してしばし不動の高い城

長い夜アホ少年と地図を描く

都市掘らずパンク少年 Rashomon

にっかつの中距離走者孤独なる

フグ田家に干刈あがたのガムを噛む

ワンタンを伝記作者に送る日々

楽園のトートロジーに九字の印

ナポレオン・ボナパルトとの恵方巻

鳥人が節分に撒く電影図

禁断の惑星を掘るぐりとぐら

季違いが濫造されて範馬刃牙