見出し画像

超次元的実戦川柳講座X−8 「ショートソングをつくる・つくられるショートソング」 



 おーす川合っすー。超次元的実戦川柳講座です。

(以下のテクストはzoom川柳講座「世界がはじまる十七秒前の川柳入門」2024年4月27日ぶんを基に加筆しています。「せか川」についてはこちら→世界がはじまる十七秒前の川柳入門

 ここのところ助詞がどうとかミニマルな話ばかり続いたので、いい加減飽きてきたんじゃないかと思います。いやそんなこと言っちゃいけないんですが。それで今回、大きな題として「なぜ川柳をつくるのか?」という問いを立てて、そこから「どう川柳を作るのか?」という方法論を経て、あらためて「なぜつくるのか?」という地点に辿り着ければ、と思います。結構脱線すると思いますが、どうかご海容ください。

1.なぜ川柳をつくるのか?(第一の問い)

 
 というわけで、「なぜ川柳をつくるのか?」という問いです。
 この問いは二つのパートにわけることができます。
 ①〈川柳〉とはどういうものか?
 ②〈つくる〉とはどういうことか?
 この①②を同時に——あるいは背叛させつつ——考えていくことが何らかの道筋を照らしてくれるのではないかと、とりあえずの当たりをつけて思考をすすめます。

①〈川柳〉とはどういうものか?

 まず①の〈川柳〉とはどういうものか? 
という問いについて。

 これは、「なにをもって川柳と定義できるのか?」という定義づけとかなりのところまで——百パーセントとは言いません——接近した論題だと思われます。
 通常の川柳のイメージとはつぎのようなものになるでしょう。

 ・五七五
 ・かろみ、おかしみ、うがち
 ・前句付

 こう言った要素を一切排除したように見せて、「作者が『これは川柳である』と言ったら川柳なんだ」という勇ましい物言いもあります。
 ちょっとこの「勇ましい」って言うのにそこはかとなく意地悪さが漂ってますが。だけどそれ、実は何も言っていないに等しいんですよね。「川柳って言ったら川柳」っていうのは言語活動に名前をつけてトートロジーにしてるだけですから。
 わたしたちは、「川柳って言った」その根拠を知りたいわけです。
 この点を考えるにあたって、とうてい川柳とは思えない、しかし〈川柳〉として発表されている「句」をみてみましょうか。 

蘭体動物/湊圭伍

 はい、この「蘭体動物」で一句です。「川柳」って言ってるから川柳です。『現代川柳句集 そら耳のつづきを』に載ってるから間違いないです。

 というわけで、「これのどこが〈川柳〉なのか?」ということを考えなければなりません。
 まず、この句に関して、圧倒的に内蔵している情報量が少ない。(これは逆に多い、と言い換えることもできますが)。「蘭」の「体」をもった「動物」であるということ。このこと以外の一切のことばがそぎおとされている。少なくとも、これは言葉のうえに言葉をつみかさねてゆく、ふやしてゆく作り方ではありませんね。

 で、ここから先が仮定なのですが、「そぎおとす」ために「フィルター」を通過させたんじゃないかと。と、言うより読み手のわたしたちが「フィルター」を思い浮かべながら読んでいくと、この句の「成り立ち」を理解するのにやりやすい。ただ、「成り立ち」を理解すると言うことと、この句を「理解する」ということはまったく別の話です。それに「理解」しなくとも「読む」ことは十全にできますし。

 で、話を戻してこの「フィルター」について細かく仕様を見てゆきましょう。はっきりと言えるのは、このフィルターが「定型」あるいは「575」である、ということです。

 あるテクスト(テクスト、という概念につてはのちほど説明します)の原型となるかたまりがあるとする(プレテクスト)。それを、フィルターを通過させる、もっと即物的な喩えをすれば「ところてん」を機器によってむにゅっと押し出すような、そんなおこないをされることにより、この句ができあがったのではないかと。
「575のフィルター」をむにゅっと押し出されることにより、さまざまな情報が「そぎおとされて」「蘭体動物」になったのではないかと。だからこれは「定型句」であるわけです。
 
(参考)

 …差異性の帰結は、構造が共時的な形で一挙に与えられねばならないということである。丸山圭三郎の卓抜な比喩を借りて言えば、同一性の体系を構成するのが箱に饅頭をつめるようなものだとすると、差異性の体系は箱に風船をつめるようなものである。前者の場合は饅頭を一個ずつ入れていけばいいのだが、後者の場合はすべての風船をうまく一度に押し込まなければならない。相互の斥力だけが構造を形作っているのだから、風船ひとつ取り出しただけでも全体の布置がズレて全く別の構造が出現してしまうのである。恣意性の上に構成され、従って差異的な構造をもつ文化の秩序は、つねに-すでに完結したもの、一挙に与えられた共時的な体系としてしか、存立しえない。

(浅田彰『構造と力』より)

 この「風船」のイメージと「ところてん」のイメージを同時に思い浮かべていただければ幸いです。

*ところてんのイメージ(0:40 あたりをご参考に)

 
 このところてんの喩えをもう少し巡ってみると、この句がそばを切るようにつみかさねられた(継時的)わけではなく、産み落とされたその瞬間に、すでに形として成立させられていた(共時的)わけです。
 だからこの「そぎおとした」ことが〈定型〉のあかしになっているわけですね。

 で、ここで「定型句」と言いました。定型≠575になるわけです。重要なことは〈定型〉という「フィルター」を通すということ、すなわち「定型という意識をもつ」ことに帰着するわけです。
 で、この「定型という意識をもつ」という点にたどり着いた時に、はじめて「これは川柳である」という意識をもつ——すなわち、「川柳って言ってるから川柳」という同語反復が意味をなすことになります。

 おそらくはこのあたりが、「〈川柳〉とはどういうものか?」という問いへの答え——あくまで一次的な答えですが——になるのだと思います。

②〈つくる〉とはどういうことか?〜テクスト論から愛をこめて

 では、②〈つくる〉とはどういうことか? という問いを見てゆこうと思います。

 そのまえに「テクスト」という概念について粗く説明しておこうと思います。これ、80年代〜90年代には流行った概念なんですが、今でも有効っっちゃあ有効なツールだと思っています。

「テクスト」とは「織物」です。第一に、「作品」をそれ単体で完成した不動のものとしない。まず、「作品」は「読み手」が「読むという参加」をすることによってはじめて成立する概念が「テクスト」です。「書き手」の「言いたいことを正解としてさがす」のではなく、「読み手」が「読み」によって「テクスト」を成立させてゆく。したがって、「書き手」もまた、まず他の「テクスト」の「読み手」としてあるわけです。他の「テクスト」を読み、引用し、織り込むことによって「テクスト」を「書く」ということが可能になるわけです。つまりテクストとは壮大な無限のテクストの織物の一断面になるわけですね。このテクスト論によって、作品の歴史・社会的状況における位置付け、あるいはさまざまなテクスト間における「作品」のありよう、みたいなことが見えやすくなるわけです。


〈テクスト〉のイメージ

 でですね。「つくる」ということを「テクスト」の概念に乗せてみます。すると、テクストとテクストのあいだに言語を成り立たせる、というこころみと言えることになります。

 つまり、先行テクスト、というものが「つくる」ことに関して必然になってくるわけですね。まずここを押さえておいてください。

 で、はじめに①②の問いを同時に考える必要がある、と言いました。予告通り「川柳とはどういうものか」という問いを再度この文脈のなかで考えてみます。

〈〜が川柳である〉という問い。
〈〜が〜である〉という公式は、テクストという概念をつかうなら、「先行テクストとのかかわりなかで存在すること」と言い換えることができます。
 したがって〈川柳である〉ということは先行テクストとのかかわりのなかで定型句が存在するということ、と言ってしまえると思います。

 この場合の先行テクストとは、たとえば他作自作を問わず、ありとあらゆる「句」であるだろうし、さらには「前句」あるいは「題」であるとも言えます。
「川柳」が当初は「前句付け」であることはこの講座でもたびたび述べてきました。過去記事参考にしてください(→超次元的実戦川柳講座 X-0「世界がはじまる・そして川柳をはじめるひとに」)。川柳をつくるときに「幻の前句」を想定するのは小池正博さんの方法論です。
 「前句」が川柳をつくるうえでの原動力になっているということ。これは「題」についても言えます。大会などの「詠題」だけでなく、みずからが「これを詠もう」と思った、そのテーマとしての題、という意味でとらえてみてください。そうなると、あるかなりの範囲まで——すべてとは言いません——「川柳」をつくるための要素として「前句付」あるいは「題」でカバーできるのではないでしょうか。

 で、ここから重要なのですが、さきほどところてんの話をしました。この「ところてんを押す」圧力として、「川柳をつくる」という行為があるのではないでしょうか。そして、その圧力をひとしくあたえるものとして、「前句」、「題」があるのではないか? と提示しておきます。


2.川柳をどうつくるのか?(ある軍人くん)

 で、では今まで考えてきたことをふまえて、「実際に川柳をどうつくるのか?」というメカニズムをみてゆこうと思います。

ここから先は

2,534字

¥ 770

もしお気に召しましたら、サポートいただけるとありがたいです。でも、読んでいただけただけで幸せだとも思います。嘘はありません、