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非日常な内容を含む慰安行事にかかった費用の取り扱いについて

こんにちは

セカンドオピニオン税理士の
宮崎貴美子です。

従業員の定着と勤労意欲の向上を図るため、慰安行事を催し、思った以上に経費がかかった場合

福利厚生費でいいのか
交際費等に該当するのか
と悩むことはありませんか?

中小企業の場合、接待交際費として支払った経費は
800万円までであれば全額が損金算入可能です。
福利厚生費であれば、上限なく経費になります。

今日は
福岡地判平成 29年4月25日で新たに示された
「通常要する費用」に係る判断基準について
お伝えしたいと思います。

年1回、1000人規模の従業員を対象に
ホテルで特別の料理が提供され、
プロの歌手などのライブコンサートを楽しみ
一人当たり2万円を超える支払い

原告(納税者)は福利厚生費であるとして損金の額に算入して確定申告をしたところ
被告(処分行政庁)は交際費等に該当するとして更正処分を行いました。

さて、
一人当たり2万円を超える支払いは
「通常要する費用」に該当するのでしょうか?

この「通常要する費用」については法律に金額の定めはなく、
専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用は、交際費等から除かれると法律で規定されています(租税特別措置法第61条の4第6項第1号)。

そもそも交際費とは
交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待等」といいます。)のために支出するものをいい(国税庁HPタックスアンサーNo.5265)、

法人税の支出する交際費等の中には事業との関連性の少ないものもあり、交際費等の損金算入を無制限に認めると、いたずらに法人の冗費・濫費を増大させるおそれがあるという考え方がベースにあります。

よって冗費の抑制という観点から、
専ら従業員の慰安のために行われる行事に係る費用が、
福利厚生事業として社会通念上一般的に行われている範囲を超えていれば
交際費等に該当するとみなされ、損金算入が認められない場合があります。

交際費等に該当するかは
法人の規模や事業状況等を踏まえた上で、
行事の目的、開催頻度、規模及び内容、効果、
参加者の構成(従業員の全員参加を予定したものか否か)
参加者一人当たりの費用額等
を総合して判断することになります。

裁判所は、

「本件行事の日程、特に、従業員の移動時間及び本件ホテル行事の会場の性質 (従業員が普段訪れることのない大型リゾートホテルの宴会場であること)並び に本件ホテル行事の内容(全従業員同士が集まる唯一の機会であり、従業員が 段味わう機会のないコース料理やライブコンサートの鑑賞を内容とするものであること)に照らせば、本件行事は、従業員にとってある程度の非日常性を有する場所への移動の要素を含むとともに、また、全従業員が一堂に会し、特別のコース料理を共に味わい、ライブコンサートを楽しむという非日常的な内容を含むものであって、従業員全員を対象とする『日帰り慰安旅行』であったといえる。」とし、

本件行事は、『日帰り慰安旅行』というべきものであり
2万6,000 円程度の『日帰り慰安旅行』に係る一人当たりの費用は通常要する程度であるというべきである、と原告(納税者)の福利厚生費であるという主張を認めたものでした。

しかし、
支出総額は、おおよそ2,100 万円ないし 2,700万円、参加者一人当たりの費用は2万2,000 円ないし2万8,000 円といずれも高額であり、この金額が、平日の昼の時間帯に、開演から終了まで 4時間ないし4時間50分という比較的短い時間で行われた慰安行事に費やされた額から判断すると極めて高額であり、被告(処分行政庁)が交際費等に該当すると主張し処分したことも理解できます。

この判決により、
福利厚生事業において、慰安目的を達成するために、従業員に対し感動や感銘をもたらすような非日常的な要素が含まれ、それが社会通念上一般的に行われており、「通常要する費用」に該当することが認められたことで、福利厚生費の範囲が広がったという意見もありますが、

本件では、原告(納税者)の事業状況や従業員の女性比率の高さ等から本件行事の場所を本社の近隣で日帰りとせざるを得なかったこと、本件行事を行ったことにより顕著な業績を上げていること、先にあげた各判断基準を満たしていることが認められたものであって、単純にどの事案でも認められるものではないと思われます。

従業員の定着と勤労意欲の向上を図るため、慰安行事を行いたい、せっかくだから非日常的な内容を含めたい、福利厚生費として計上したい場合には
① 交際費等の損金不算入制度の趣旨及び目的に鑑み、
② 当該法人の規模や事業状況等を踏まえた上で、
③ 当該行事の目的、
④ 参加者の構成(すなわち、従業員の全員参加を予定したものか否か)、
⑤ 開催頻度、
⑥ 規模
⑦ 内容
⑧ 効果
⑨ 参加者一人当たりの費用額等
これらの基準を満たす必要があり、調査においては、基準が満たされていることが説明できるようにしておきましょう。

福利厚生費以外の科目でも、調査においては、調査担当者から支払った相手に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のための支出だと認定され、交際費等に該当すると指摘されることがよくあります。

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