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不協和音(16)

さらに今回ギターとして城が勧誘した宮路の存在が良かった。ギタリストはどのバンドにおいても音の主張が最も大きい。アマチュアであってもそこは通じることで、楽器隊のイニシアチブはどうしても目立つギターに左右されがちになる。

しかし宮路はバンドとして初参加となるギタリストということを差し引いても大げさな主張をしない。しかしトラックメーカーなだけあって音作りに関しては機材の扱いも含めて勤勉だし、何より他の楽器とのバランス感覚に長けていた。

バンド編成で重要なのは個々の楽器隊のスキルじゃないと城は常々思う。もちろんスキルも重要なことには違いないが、問題はそれを他人との演奏で共有する場合いかに活かし、いかに殺せるかにある。自分の納得する音をバンド内で主張することは誰でもできる。だが宮路は「引き」に関して実に冴えていた。

ギターはただでさえ主張の強い楽器であり、サウンドのメインになる。だからこそ引く時に引ける宮路の謙虚さは何よりの強みとなったのだ。これは彼の人間性に拠る部分も実に大きかっただろう。彼は城の予想よりもずっと細やかな意識を持ってバンドに参加していたのだ。

それではもう一人の楽器隊である成田はどうか。そもそもこのバンドの発起人であり城が興味を持つきっかけとなった彼は、メンバー間でも最も幅広い音楽を聴く男だった。洋楽主体ということはあっても女声男性問わず、さらにはロックにも限定されない。それは裏を返せばジャンルに捉われない耳を持ち得ているということだ。

演奏の要となるドラムは皆の踏み鳴らす地面と化す。常に堅くても常に柔らかくてもそれは厳しい。曲によって他のメンバーがそれぞれに変える表情、速さ、その全てを吸収する土壌は彼の中に充分すぎるくらいにあった。

決してパワー型ではないが楽器隊の演奏に隙間を作れるドラムと言えばいい。ギターとドラムという音圧において二極を統べる楽器において、緻密に詰めることのできる宮路と隙間を作ることのできる成田はある意味で理想だった。そう、あとは城がその隙間を低音で埋め尽くせばいい。

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