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他人で欲求を満たすな


[1]他人の欲求を満たすということ
 仕事はとても簡単だと思う。人の大半は「誰かが自分の不満や不平を解決してくれるのを文句を言いながら待っている」ことが多いので、そういった類のものを先廻りして解決しておくだけで評価してくれるし、暮らしも保証してくれるし、損失が出たとしても会社が補填してくれたりする。
 ある種の他人の欲求を満たすことで、自分の人生がそれなりに上手く回る仕組みができている。ブラック企業はそういった先廻りを全て企業が搾取するけれど。
 けれど、プライベートな領域に入っても人の性質は変わらないものだから、対価がなくても、人は自分の欲求を他人を使って無意識に、無際限に満たそうとする。
 他人の心配をするふりをして自分の欲求を満たそうとしたり、少しでも自分が良い思いをするために、他人の善意を平気で利用したりする。「自分を大切にする」を履き違えると、「他人の気持ちは考えなくていい」になってしまう。

[2]因果応報
 50代後半のおじさんが、仕事中パソコンに視線を向けている僕の視界に入ってくるように顔をにゅっと覗かせて「なぁ、いつ飲みにいく?」と毎日聞いてくる。パソコンから視線を外さずに僕は「あぁ、すいません、忙しくて」と答えると「なら来週はどう?来週ならいけるやろ?」「ちょ、ちょっと仕事中なんで、また後でもいいですか」「話したいこと山ほどあんねん。なぁ、頼むで」。
 このやりとりがかれこれ三ヶ月ほど続いて僕は軽い吐き気を覚えている。うっかりそのおじさんとフロアでばったり遭遇したりすると確実に呼び止められて、誰かの悪口や不満を延々と聞かされることになる。「あいつはダメや」「あいつは仕事できんくてあかんなぁ」「もう終わりやでこの会社」。
 結局そのおじさんは今月末で派遣契約を切られることになった。人の不平不満を言い続けて、他人を利用して自分の欲求を満たそうとする人は、どこかしらで人生を挫かれているのかもしれない。そう思わないと、度々生じる軽い吐き気に納得できない自分がいた。

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