ユートピアと幸福

[1]ユートピア
 本屋で時間を潰しているとき、哲学の名著紹介なんかをパラパラとめくっていると、トマス・モアのユートピア論が紹介されていた。平たく「ユートピア」という言葉を作った人だけど、「健康こそ人間の快楽である」の一文を見て、あぁなるほど、と気になってしまった。
 基本的にユートピア論は、「ユートピア語ってるけどさぁ!!そんな理想郷、逆にディストピアじゃん!!」みたいなことを言われまくって可哀想なイメージがある。
 6時間労働、飲酒の禁止、貨幣の追放、限定された節制的な遊び、管理社会の中で慎ましくそれなりに皆豊かに暮らすことがユートピアらしいけれど、なんだか逆に魂の抜かれた人形みたいな印象を持っていた。
 トマス・モアだって一生懸命考えたんだけどねぇ。たまたま先を生きる僕達が、頑張ってた過去の人たちを卑下してはいけない。
 そんな中「健康こそ人間の快楽である」の一文を見て、簡単に片付けるのは良くないなと思ってしまった。まぁ確かにそうだ。「健康」と「快楽」を線で結ぶのはセンスがないとできない。バンドだってそんな一面があるんだろうなぁと、少し想像を広げて本を閉じた。

[2]ダメになる
 ユートピアでは飲酒は規制されているけれど、僕は確かに規制した方がいいかもしれない(いや、しない)。
 そこは母譲りなのだろう。子どもの頃は家でぐでんぐでんに泥酔する母を見て「お酒なんて悪魔の飲み物だ!!」なんて思っていたけれど、今も変わらず悪魔の飲み物で、たまにダメになりたい時にしっかりダメになるために飲んでいる。
 「あまり何かに寄りかかることができない人生」を歩んでいる僕は、時にダメになって幻影でも良いから何かに寄りかかりたかったりする。しかしやはりそれは幻で、酔い潰れて朝4時頃不意に目覚めると途方もなく虚しくなったりする。
 酔いと気持ち悪さを抱えた頭で、そのまま考えたりする。ユートピアには程遠いけど、そうやって馬鹿みたいにお酒を酌み交わす人がいるのは幸福かもしれない。朝方虚しくなった心と財布を、そう思うことで勝手に穴埋めして、少し安心してまた眠りについた。
 

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