偏屈とアルコール

[1]偏屈
 少し前に職場に入ってきたどう考えても偏屈なおじさんに何故か気に入られ、難波の街で飲んでいました。どう考えてもそのおじさんは偏屈でとっつきにくいのに、直接業務に関わらない距離感のおかげで愛想良くしているうちに気に入られてしまった。半分興味本位で、こう言う人はどういう価値観で生きているのか気になって誘いに乗って飲みにいくことにした。
 偏屈なおじさんは飲み屋でも偏屈で、戦闘機の話や地方の四方山話、大人のお遊びの話を、折々に触れて飲み屋のお姉さんに絵に描いたようなセクハラ発言を繰り返しながら話していたので恥ずかしくもあった。
 悪態の尽きない陽気で頑固なセクハラおじさんに、そういえば年齢を聞いたことがないなと思って伺ってみると、母親と同じ年齢だった。
 目の前の視界で元気に悪態をつくおじさんと、闘病中の母が同じ年齢ということに少しだけ神経がひりついた。同じ人間で同じ年齢でもこうも現状に違いがあるのは、ほんの少し不公平に感じてしまった。それは僕の心の隙間から出た本音だったが、偏屈なおじさんが病気になればいいということではなく、母が元気でいてほしいという気持ちからだった。

[2]それぞれの事情
 翌日偏屈なおじさんは会社に遅れて出社した。そんなに深酔いしてなかったはずなのにな、と思って訳を聞いてみると「いや、俺の母ちゃん足悪くてさ、日によって歩けなかったりするんだよ。介護だよね、介護。もう高齢だから、何があるか分からんよね、はは。」とごにょごにょ話してくれた。昨日飲んだからか、僕に少し心を開いてくれた気がした。
 偏屈なおじさんにも親がいて、それぞれがそれぞれの事情を抱えて生きている。ぱっと見はただの気難しそうなおじさんでも、それぞれ抱えている諸事情があったりなかったりする。
 抱えているのは僕だけではない。みんな何か抱えて生きている。意外と飲みに行ってみて良かったな。締めに連れられて食べに行ったラーメン屋は、僕が何年も前に親友と飲んで記憶をなくした状態で食べた店だった。こんな味だったんだねこのラーメン。当時は朝起きたらスマホも前歯も失っていたけれど、今回はそれなりに良いエピソードを手に入れた気がしている。

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