仕事、向いてないと思います。
[1]私、辞めなければなりません
「私はこの仕事向いてないと思います。だからもう辞めないといけません。」同じチームで入社半年の2歳年下、外国籍で中途採用の方に呼び出され、こう告げられた。「いくら注意したってミスが減らないんです。丁寧に何度も教えていただいているし、私は注意しているのに、減らないんですよ。じゃあ辞めるしかないじゃないですか。」
僕は専門家でもなんでもないので、彼の苦悩が改善可能なものなのか、脳の機能による解決し得ない根源的なものなのか、図りかねていた。「二ヶ月間に期間を絞って、もう少し具体的にミスを減らせる方法を一緒に考えませんか。僕も本気で向き合います。適性を考えるのは、その後ではどうですか。」苦しむ彼を、まだ二ヶ月間地獄に縛りつける了承をもらい、その場を収めた。
就いている仕事の特性上、業務の内容はかなり専門的でありマルチタスク、その上書類を1文字も間違ってはいけないデスクワークなので、かなり神経を使う。その特殊性に耐えられず辞める人も多いのが実情だったりする。
確かに、細やかなことまで気付く人が職場に多い。そんなところまで神経質にならなくても…、と思うくらい完璧主義な人もそれなりにいる。僕自身はドラムを叩いている姿から分かるとおりかなり大雑把な性格なので、仕事中はモードを切り替えなきゃまともに務まらない。それでも大雑把が中雑把になるくらいで迷惑をかけてはいるが。
[2]心の手綱の持ち方
この仕事に適性がないと話す彼は、賢いがとにかくケアレスミスが多い。何度伝えても、同じミスをしてしまう。スピードは速いが全ての進め方が雑で、協調性がなく、いくら止めても独断で物事を進めてしまう。結果書類が何度も差し戻され、平均以下のスピードに落ち着いてしまっている。
この面だけ見れば脳の特性上の問題に見えてしまうものの、角度を変えれば「自分のブレーキのかけ方をしらない」だけのようにも見えてくる。「一度してしまったミスを振り返って、自分なりに防止策を打ったりしますか?」と聞くと「私は振り返らないので」と言われてしまう。「ここの文章をこう言い回しを変えたら、相手に伝わりやすくなって齟齬も減りますよ」と伝えると、彼は「私は伝えました。読み込まない相手が悪い。」と言う。
これは、外国籍からくる文化の違いなのだろうか。それとも脳の特性上の問題なのだろうか。ブレーキの掛け方をしらないだけなのだろうか。その全てなのだろうか。
一日のうちにミスを色々な人から指摘されるたびに、彼の表情はどんどん曇り、固くなっていく。確かにダメージは受けているようだ。その強気な言葉の反面、心は繊細で傷ついているように見える。だからといって何か自分で対策を取っているのかと言われれば、そうでもない。そしてその苦しみは、全て脳の機能の問題であるようにも素人目には見えない。
「新しいタイプだな、難しいな」と僕は思っている。人は自分の中で抱える凸凹に、毎日毎時間苦しんでいる。自分自身の力やスキルだけで向き合えない人もいる。時には長所であり、短所にもなり得る自分の中の凸凹を、どうやって手綱をつけて扱っていくか。うまく自分を馴らすこと、それが人生を一番楽しむコツなのかもしれない。彼と、もうしばらくの間その手綱の持ち方を試行錯誤する日々になりそうだ。
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