自分を主人公に

[1]主人公ではない
 いつの間にか自分が主人公でなくなっていた。それは多分、働き始めてからだったように思う。
 「本来自分の人生に働くという選択肢がなかったはずなのに」といううっすらとした自己否定、当時就職した職場の鬱積とした空気感、全てが想像より少し噛み合わなくなり「主人公でない」という意識が心の隙間に入り込んでいた。
 そんな気持ちの傍らバンドを続けていたものだから、きっと心のどこかで「働かない本来の自分」像をバンドに必要以上に背負わせてしまっていたんだと思う。「仕事を辞めたい」という気持ちは、どんなときも主人公になれない自分への逃げや言い訳でもあった。

[2]主人公になるために
 少し気持ちが変わったのは今年に入ってから。明確な線引きはないけれど、現状の仕事に「仕事感」が無くなったのは、より能動的に首を突っ込んで、責任を取ろうとするようになってからだと思う。
 すると不思議と、バンドと会社員の繋ぎ目がシームレスになっていった。全部能動的に人生を動かすことで境目が薄くなったのだ。約10年前、会社員になった初めは、会社の最寄駅に近づくだけで吐き気を催したり、気持ちがずっしり重くなっていたのと比べると、コツを少しだけ掴み始めた気がしている。
 ただ会社という組織で能動的に動くのは、相当なパワーが要る。わざわざ錆びついた車輪を回すような作業が沢山必要になってくる。誰かの残した不誠実を、数人の優しい人達でなんとかしなくちゃいけない。やっぱりバンドのほうがワクワクしてしまう。ここに人生の余地がある。
 もっとワクワクするものに置き換えていったり作り替えていかなきゃいけない。希望が見出せているのも、きっと関わってきた人達のおかげだろう。自分を主人公にするためには、他人を羨んでいる暇はない。

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