雑踏と躊躇

[1]奪われていく
 冬に入るにつれて少しずつ覇気がなくなって、毎日をただ生きるだけの人間になっていた。毎日を全力で生きるというコンセプトで朝を始めても夕方から体が追いつかず、夕方以降は仕事で奪われた体力をなるべく消費しないようにして、明日に備えて眠りについてしまう日々を送っていた。
 その余計な疲れの原因は、大抵他人の時間や労力を食い潰すことを厭わない人や、力を奪う言葉の数々としっかり相手をしてしまうところからきていた。本当はもっと活動的になりたいのに、他人に一日一日食い潰されてボロボロになって寝床に入る、こんな毎日を繰り返している。
 ありがたいことに神様がそんな僕に目を覚ませと、今年のライブが全て終わった頃合いを見計らって体調不良をプレゼントしてくれたので、あぁ、仕事を休もうと思った。ありがとう、神様。いや、サンタさんかな。

[2]ツリー
 体調がようやくある程度快復し、仕事終わり難波のカフェに入って、家路を急いだりこれから誰かに会う人たちの往来を眺めながら一服していた。今日はクリスマスだった。
 そんな人たちを眺めながら自分が子どもの頃のクリスマスの思い出を振り返ってみた。しかしながら思い出せるのはささやかなものが幾つかあるだけだった。ある年は小さなホールサイズのアイスケーキだったり、ショートケーキのアソートだったり、基本的には楽しみながらも慎ましやかに家で過ごしていたような気がする。
 そういえば当時は90センチくらいのクリスマスツリーが家にあって、クリスマス前後に母が和室に出してくれていた気がする。照明をぐるぐる巻いて、寝る時も点滅する色とりどりのライトを付けていた。
 実体のあるクリスマスツリーがいつの年からかゴミに出され無くなったことが、サンタさんが居なくなったことより寂しかった。母はどういう気持ちでツリーをゴミに出したのだろう。
 なんとなくそんなことを考えながら、いつもよりも少し足早にカフェの前を横切る様々な人の人生を眺めていた。しかしそうやって視界に入る人の中にも、他人の時間を奪うのに躊躇ない人が幾分か含まれているんだろうな。善しも悪しも、全てはいつだって色んな濃淡で混ざっている。今日は家に帰った後、もう少し自分のやりたいことができるだろうか。少し不安を抱えながらクリスマスの難波を後にした。


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