琵琶猫

琵琶猫とは、琵琶のような音色の鳴き声を出す猫のことを言います。
低く、低く、その声はどんな山彦よりも遠くに、雷鳴よりも轟きます。
琵琶猫の体躯は、大きい山猫、小さい虎のようで、耳の先に長い毛が生えております。
梟のような体型で、羽と鳥の脚を持つ変わったものもいます。
野性味溢るる蛇のような毛色の者もいれば、虹や螺鈿細工を吸い込んだような色味の毛皮を持つものもいます。
雷鳴や豪雨の中を、おどけた道化ようにくるくる回ります。それが、琵琶猫にとっての、犬の散歩のようなものなのです。
そうして、長い尾に、ぴりぴりと静電気を帯びたときは池にだらんと尻尾を流して、水の中に電気を逃します。
病気でも、水の質の悪さでも、災害でもなく、いきなり魚が全部死んでしまったのは、琵琶猫がところ構わず、尾に宿る小さな電気を流してしまったせいかもしれません。
琵琶猫の乳は、普通の猫や獅子と同じ場所ではなく、脇の下についております。
子供は父と母から生まれてくるのではなく、生え変わって、ごっそりと抜けた毛の中から、自然とぽろりと生まれ出てきます。
大きい巻貝の中で眠る習性があり、一度眠るとどんな事でも滅多に起きません。
琵琶猫は、首を斬っても、胴を断っても死ぬことがありません。
それでも、なぜか自然と数が多くならないのです。
琵琶猫は、時折逢魔ヶ刻に見かけた人の影の中に入り込み、潜んで、どろりとした真っ黒な影の中から大きな眼を開いて、人の営みを見物して、暇を潰してします。
気まぐれに、その人の心配の種や不幸を吸い取ってくれますが、琵琶猫の気に食わない性根の人ならば、影の中から心を食べ尽くしてしまったり、逆に不幸を呼んだりもします。
全く持って、人の常識でははかれない、はかりしれない生き物なのです。

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