意地悪な他人(ひと)

やあ、今夜の舞台素敵でしたよ、
まあ喜んでいただけましたか、私も嬉しい限りですわ
ええ、特に最期のシーンは、もう感極まって泣いてしまいましたよ
そうですの…
ええ、…やっぱり美しい人は舞台に立っていなくても、輝き溢れんばかりですね、周りがくすんで見えます
お上手ね
とんでもない、本心ですよ
本当かしら
酷いなあ、信じてくれないなんて、貴女のお召し物だって素敵なものばかりじゃないですか
あら、お分かりになる？、ふふ、あたくし、これが一等気に入っておりますのよ
ああ、きっと、これもさぞかし有名な職人が作り上げたものでしょうな
いいえ、違いますわ
おや、失礼、それではあの有名店の特注ですか
残念ですけれどそれも違います
それでは一体何なのですか
これにはとても値段など付けられません
じゃあ、かの有名なデザイナーが気に入った客に一度しか作らないものですね、なるほど、どおりで金で価値が測れないわけだ、そのデザイナーが亡くなったらきっと世界中の美術館から、寄贈して欲しいという催促がひっきりなしに来るはずですよ
…残念ね、
は
それは、あたくしが作った物ですの、材料も子供の一ヶ月のお小遣いで事足りますから、それに自分が愛情込めて、楽しんで作った物はどんなものにも変えられません
いや、その、それは
好き好んでこんな女に近づいて来るのだから、審美眼ははっきりしていると思ったのに、あたくしの検討違いでしたわね、安い言葉で適当にまくし立てても、そこらの女のようにはいきませんわよ、それともあなたが欲しいのは、流行りの女優と付き合っているというスキャンダル？それかただのいっときの気の迷いで、美貌がある妻を手に入れて、世間が気にしないようになったら、他の頭の軽い、扱いやすくて若い娘、何人とも遊ぶおつもり？
も、申し訳ない、そんなつもりでは
そうして、妻とは性格の不一致で霹靂した、結婚するまであんな人とは分からなかった、僕の財産を目にしたとたん、本性を現したんだ、とべらべらいって三流ゴシップを売り物にしている会社にでも売り込んだら、小遣い稼ぎにはなるでしょうね
そんな、酷いのは貴女です、私はあなたの舞台にこんなに心を打たれたのに
ああ、今日の劇、人気の話から切り貼りしたような台本も好きになれなかったし、脚本家もああだ、こうだと中身のない抽象的なことしか言わないし、別の役者がしゃしゃりでてきて鬱陶しいったら、もうこんな劇場から出ていけるなんて、清々するわ
…
付け足して言うと、ラストシーン、監督が大衆受けするよう無理やり変えたの、だから話の辻褄が合ってないところだらけだし、主人公の性格からしてあんなことをするとは、到底思えなくて、早く帰って、熱いお風呂に入りたいわ、なんて考えながら演技してたの


顔はいいのに、本当に残念だわ