第11話 綱引き

工場勤務2日目の朝

(やっぱり筋肉痛が来てるなー 。延々と20kgのもの運んでるからそりゃそうだわな)

筋肉痛を心地よく感じながら食堂に向かうと

老人のような動きになってる同期を発見した

TK工房「何?筋肉痛?(笑)」

古瀬「やばい。全身やばい。今日無理や」

(まぁ、普通はこうなるわな)

箸を持つのも手が震えている古瀬を尻目に、朝からモリモリと食べるTK工房

その日は1時間早く出社した

そう、綱引き大会のためだ


TK工房「おはようございます!」

湯原「おー、おはようさん」

松本「うぃーす」

TK工房「松本さん!ちゃんと靴持ってきましたよ!」

松本「うるせぇコノ!(笑)」


全員揃ったところで、工場内にある体育館に向かった

体育館に着くと既に300人以上の人間が集まっていた。

(お~、さすがに国内最大の工場なだけあって規模が凄いな)

この綱引き大会は、4つのブロックに分かれており、各ブロックで3回勝てば優勝する仕組みになっている。

つまり優勝チームは4つ出来るが、そこで終了する。

4チームで王者決定戦を行わない理由は、そもそも工場の作業員全体が4班に分かれて、勤務時間も3直に分かれてるので、全チームが揃う瞬間がないからだ。 もちろん各ブロック、早朝、夕方、夜と試合時間はバラバラ。


湯原「綱引きはコツがあるんだ。それさえ守れば負けることはないから。」

そういうと、メモ帳とペンを取り出して説明が始まった

湯原「だいたいのやつは綱引きの時こんな姿勢になるだろ?」

湯原「これは腕の力を使うから全然ダメ。基本は背筋と脚力なのよ」


ふむふむ


湯原「だから腕は伸ばしきって、身体は地面と平行。顔は真後ろを向く」


湯原「これをするだけで、圧勝出来るから」


運営スタッフ「じゃあ次は材料工程3班と仕上工程1班!位置についてください」

(よっしゃ行くか)

ロープの左右に分かれて持ち場に立つ

運営スタッフ「それでは位置について」

全員がロープを握る



運営スタッフ「よーい、スタート!」

オラー!!!

オーエス!!オーエス!!


ピ、ピー!



あっという間に勝負はついた


湯原の言った通りにすると、見事に圧勝

湯原「言っただろう?基本さえ守れれば負けることはない」

すげーな、甲子園球児。まぁ野球まったく関係ないけど。


続く2回戦も勝利し、あっという間に決勝に進出した


決勝の相手は、材料第2工程 1班

材料工程ほどではないが、見るからに筋肉隆々とした集団だ

ブロック決勝戦ということもあり、会場の300人余りが注目する

運営スタッフ「それでは位置について」


「よーい、スタート!」

オラー!!!

今までの相手とは明らかに違う手応え

両陣営初めの位置から全く動かない


湯原「オラー!TK工房! 何前向いてんだコラー!後ろ向け後ろー!」

TK工房「はいー!!」

均衡が崩れ、ジリジリと後ろに進み出した

これはイケる

と思った瞬間

後方のメンバーがバランスを崩して次々と転倒

ロープも大きく左右にブレた

(あーあ、もう負けたな)

と思ったが、よく見ると左右にブレた弾みで相手チームもバランスを崩して転倒している

湯原「早く立てー!!勝つぞー!」

「うおー!!!」

ピ、ピー!!!

運営スタッフ「材料工程3班の勝ちーー!!」


「よっしゃー!!!」

なんとか勝利を収めた。 もう足も手もガクガクになっている。

(これから8時間も仕事出来るんかいな?)

湯原「言った通りだろ?コツさえ守れば負けることはないんだから」

全員でハイタッチをし、その後、表彰式で湯原が表彰状と金一封を受領した

「さすが材料工程だなー、やっぱ違うわ」

という声が周りから聞こえ 、まだ配属されて2日目の自分も、自分の職場が褒められて嬉しい気持ちになる

みんなで喜びを分かち合いながら、「何であそこでコケてんだよ!」とゲラゲラ笑い、体育館を出て現場に向かった

(こういうイベントも職場の一体感、自尊心を養う一つの手段になり得るんだなー)と素直に感心していた

ふと、ジンジンする両手を見てみる

(これ、今から作業できるかな?)

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