第20話 カバン持ち その2
翌日も鞄持ちが続く
同行させて貰える営業マンは毎回違う
今回付かせて貰う営業マンは、清田弘。
背丈は162cmくらいだろうか。174cmのTK工房からするとずいぶん小さく見える。
小太りで地黒、目は垂れていてタヌキのようなどこか愛らしさを感じる40代半ばのおじさんと言ったところだろう。
一見、大人しそうに見えるが、岸和田出身のだんじりファイターだそうだ。
岸和田の著名人、元プロ野球選手の清原の様に身体こそ大きくないが、気性は同等に荒いかもしれない、、、
粗相のないようにビクビクしながら、挨拶をした。
TK工房「本日はよろしくお願いします」
清田「どうも」
表情を変える事なく、ボソッと返事が返ってきた
昨日の卸向け営業と違い、今回は小売店営業だという
無表情で無口な清田を見て、こんな感じで営業なんか出来るのか?と不安になった
昨日同様、営業者のカローラフィールダーに乗り込み、向かった先は滋賀県の大津
神戸から大津までは高速で1時間強
清田は車の中でも基本は無口だった
話しかけても、ぶつりぶつりと会話を切られることに嫌気が指したTK工房は、研修前に配られた資料を鞄から出し、目を通すフリをして時間を潰した
非常に長かった1時間が過ぎ、大津にある大型のスーパーについた
車をスーパーの駐車場の一角に停めて、二人はスーパー店内へと進む
どこにでもある大型スーパーで、1〜2階が売り場になっていた。
2階まで階段で登ると、普通に売り場内の一角にある、丸テーブルが並んだスペースに案内される
(え?こんなとこで、商談するの?普通に売り場やん)
出て来たのは、店員のエプロンを付けた30代半ばの男性担当者だった。胸元の名札には中田と書いてある。
(普通のバイトの店員みたいやな)
3人が椅子に着くと、清田がおもむろに話し始めた
清田「どうもお世話になってます!」
先程までとは打って変わって、にこやかな表情に大阪商人丸出しのコテコテのイントネーション
(え?スイッチ入った?)
中田「どうもお世話になってます。早速ですけど、今日は棚割のことで報告がありましてね。」
清田「はい、なんでしょう?」
中田「ちょっと売り場が縮小になったのもあって、御社の製品は一番下に持ってくることになりましたので、一応報告だけしときますね」
清田「えー!ほんまですかー!一番下はちょっと辛いですねー。真ん中くらいになりませんか?」
中田「他社さんは外したところもありますので、これでご納得いただきたいですね」
清田「そうですかー。わかりました。後で売り場だけ確認させてもらいます。」
清田「それでね、中田さん。今回うち、ちょっと新商品出しましたんで、紹介させてもらおうと思いましてね」
中田「へぇ。新商品?」
清田「ついにうちも手袋を出しましてん」
中田「は?手袋?」
清田「はい、いわゆる作業手袋なんですけど、その中でもちょっと高級な仕様になってるんですわ。指先が丈夫なのと、しっかりフィットするので細かい作業ができるていうモノなんです」
中田「はぁ。。」
中田は出されたサンプルを怪訝そうに見ている。
中田「でも御社はタワシ屋さんですよね?手袋なんか出す必要ないんちゃいます?」
清田の働くデイリーフォースダイアモンドでは様々な消費財を取り扱っており、生活雑貨ではタワシが主流商品となっていた。
清田「いや、うちも商品の幅を広げていかなあかんなということで去年から会社でも取り組んでおりまして、これが一発目になりますねん」
中田「そうですか。まぁ、今回は良いですわ」
清田「そんな冷たいこと言わずに、ちょっと検討してもらえませんか〜?棚割も一番下になったことですし〜。うちも厳しいんですよ〜。」
中田「は?棚割は別にこの製品とのバーターでそうしたわけじゃないですしね。御社の製品、残しただけでも感謝してもらいたいのに、その言い方は心外ですね。」
清田「いや、そういう意味じゃないんですけど、なんとか検討だけでもお願いしますよー」
中田「まぁ一応サンプルは社内で報告しときますけど、とにかく今回は無理ですよ。要件は以上ですかね?」
清田「はい、ありがとうございました!
また来させてもらいますんで引き続きよろしくお願いします!」
愛想よく挨拶をし、中田の姿が見えなくなった頃には、清田はまた無表情に変わっていた
そして、ボソリ
「ま、こんな感じですわ」
先ほどの会話の通り、そのまま1階の生活雑貨売り場に向かい、自社商品の陳列を確認した。
何かボソボソと言いながら、かがみ込んだ清田が製品を少しでも見えやすいように、前面へ引っ張り出し、鞄の中から出したデジカメで2〜3枚売り場の写真を撮った
一通りの作業が終わるとまっすぐにスーパーを出て、停めてある車に乗り込む。
正直、全然想像と違った。
岸和田出身の無口で無表情な清田
それが客前ではニコニコと饒舌で
ヘコヘコするスタイルの営業だったこと
先日の竹中の時とはまるで話す内容が違ったこと
(営業ってやっぱりこんなんなんや。営業マンのイメージはそのままやったけど、清田でも漏れなくこんな感じになるんやなぁ)
(そして小売ってこんなに立場強いんやなぁ。30代そこそこの担当者が明らかに年上の清田にこんなに態度でかく話をするなんて)
学生気分の抜けていなかったTK工房は少し社会を学んだ思いがした
つづく
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