第9話 肉体労働

申し送りが終わり、各自持ち場へと散って行く

湯原「じゃあ、今日から俺と同じ持ち場で働いてもらうから。一旦、材料工程の全行程を説明するわ」

TK工房「よろしくお願いします!」

材料が搬入されてくるところから、材料を仕分けして決められた位置に運び、指示書の通りに生産ライン(ベルトコンベア)に乗せて行く。

乗せられた材料がその後どのように組み立てられ、二次材料になるかを設備の裏側も見せてもらいながら説明された。

工場内部はファイナルファンタジーに出てくるような工場内部そのもの

設備も巨大かつ精密で、かなりの部分が自動化されている


湯原「工場内での服装のことは座学で厳しく言われたと思うけど、冗談抜きでしっかり守るように。シャツが出たり、靴紐がほどけてたりしただけで、機械に巻き込まれて命落とすからな」

TK工房「はい!」


確かに、大型回転機などに巻き込まれたら即死だろうなと思うと同時に


現場の社員の教育の行き届き方に関心をした


全ての作業を一つ一つ指を指して、声に出しながら確認し、進めていく。いわゆる「指差し呼称」と呼ばれる作業を徹底しており、その重要性もしっかりと理解している。

(スゲェな。 やっぱり今まで経験したバイト現場なんかとは格が違うな。)


この時まで、ハッキリ言って舐めていたTK工房。 現場の人達は高卒で就職し、工場内の単純作業を永遠に繰り返すだけの人達で、作業も簡単でテキトーにやってるんだろうなと斜に構えていたが、全く違うことを思い知らされた。

(現場ではこのレベルで日々社員が取り組んでいるおかげで、この会社がなりたってるんやな。)

(しかし一方でこんな過酷な労働環境で働かされているのに、報酬は雀の涙というのも事実。 田舎に生まれ、高卒で地元の大企業に就職するとはこういうことなのか。)


TK工房「湯原さんは、プロの話もあったんですよね?そっちに行こうとは思わなかったんですか?」


湯原「まぁ、プロの世界は厳しいのと、俺自身野球は高校でやりきったというのがあったからね。地元で大企業に就職して、その中で上を目指そうかなと」


確かにテレビで見るのはほんの一握りの選手ばっかりで、その裏では無数の消えて行った選手達が再就職に苦労して、一家路頭に迷ってるケースも多い。

何が正解か他人にはわからないが、本人が選んだ道で、幸せを感じて生きることがその人の正解なのかもしれない

そうこうしていると、現場作業が言い渡された。

TK工房に与えられた仕事は2ラインの材料投入

湯原がフォークリフトで次から次へと材料を運んで所定の場所に置き、TK工房はその材料に貼られている伝票を見ながら、計画表と一致しているかを確かめて、ベルトコンベアに乗せて行く

重いものになるとその重量は20kgにも及ぶため、現場の人間は大抵、腰にコルセットを巻いて作業をしていた。

アメフトで鍛えたTK工房にとっても、かなりキツイ作業ではあったが、目の前の作業をこなしている間に数時間が過ぎ、気が付けば食事休憩の時間になっていた。

この工場の食事休憩は1時間あり、その間、生産ラインの電源は落とすことになっている

電源を落とす前に入念にやり残し作業がないか各所チェックをする湯原

湯原「この生産ラインは一回電源落とすと、次に立ち上げる時に100〜150万円くらい電気代がかかるのよ。だから、電源操作は慎重にやらないとダメなの」

TK工房「立ち上げるだけで、そんな金かかるんすか!?それだったら、付けっ放しのほうがよくないです?」

湯原「もちろん1時間付けっ放しのほうが電気代食うし、誰もいない作業場で危険な機器を動かしたままにするほうがリスクあるからね」

(なるほどなぁ。)

電源を落とし、作業場を後にする二人。

食事は工場内の食堂でとれるようになっていて、一食150円で腹一杯食えるようになっている。福利厚生の手厚いメーカーの見せ所。

並んである小鉢と、メインディッシュをお盆にとり、ご飯は自分で盛るスタイル。このご飯、50歳台の初老の作業員まで、信じられないに盛る

まるで、日本昔話の大盛り飯だ。

(そんなに食べれんの!? )

と思っていたのも束の間。老いも若きもあっという間にペロリと平らげている。

今まで食べるスピードが早過ぎて、もっとゆっくり食べろと親からも友人からも言われ続けたTK工房

この工場では、まさかのダントツでビリになった。

食べ終わった作業員から職場の休憩室に戻って行く。その間5分とかかっていないだろう。

気が付けば席には湯原とTK工房だけになっていた

湯原は既に食べ終わっているが、OJTということもあって待ってくれているようだ

湯原「TK工房、慌てなくていいからな。ゆっくり食べろよ」

(こ、こんな屈辱は受けたことがない)

新世界すぎた肉体労働の現場。格の違いを知らされたTK工房だった。

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