労働判例を読む#262

【学校法人関西外国語大学事件】大地判R2.1.29労判1234.52
(2021.6.11初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、大学Yの教員5名(Xら)が、担当コマ数の設定、委員会の担当、残業時間、懲戒処分について違法であると主張し、特に担当コマ数と委員会の担当に関連して労働組合の争議行為が正当であると主張した事案です。
 裁判所は、Xの主張を全て否定しました(控訴)。

1.契約内容
 Xの請求のうちの、担当コマ数、委員会、勤務時間は、労働契約は就業規則、36協定の内容の評価の問題です。
 例えばXらは、担当コマ数を6時間と約束していたはず、と主張していますが、裁判所は当初の契約に8時間や10時間と記載されている者については、主に契約書の記載を根拠に、また6時間を最低限のノルマとするような記載のある者については、主に担当コマ数の上限は別に定まることを根拠に、担当コマ数が6時間とするXの主張を否定しました。
 このように、ルールの評価・解釈に関する問題については、いわゆる「合理的意思」を証拠から認定する手法で事実認定が行われています。

2.争議行為
 ここでは、裁判所が設定した「判断枠組み」が注目されます。
 すなわち、争議権の保障の趣旨(団体交渉を機能させるもの)から、争議行為は労使間の合意形成を促進する目的・態様でなければならないとし、争議行為の中でも義務履行を拒否する方法を取る場合には団体交渉を通さないこともあり、合意形成促進の目的が失われた場合には正当性がない、という判断枠組みを示しました。単なるボイコットの場合で、会社との協議促進に貢献しない場合(業務命令拒否自体が目的になっている場合など)には、正当性が無くなるということになります。
 たしかに、労働組合の行動はそれだけで自動的に全て有効になるわけではなく、経営の自由との調整が必要となります。その意味で、争議行為が協議促進に貢献するかどうかという判断枠組みを設定したのは、両者のバランスを取るべきルールとしてそれなりの合理性が認められるでしょう。
 そのうえで裁判所は、いずれの論点(担当コマ数、委員会の担当)についても、労働組合とYとの間の交渉が継続的に行われてきて、Yが労働組合の要求に応じられないことを繰り返し、その理由も含めて説明してきたことや、これ以上協議が進捗できない状況にあることを認定しました。この認定を前提に、Yは誠実交渉義務を果たしており、合意形成の促進の目的が失われた、として正当性(合理性)を否定しています。
 つまり、会社と労働組合の協議促進に役立つかどうか←会社が誠実交渉義務を果たしたがこれ以上歩み寄りは難しい⇒協議促進に役立たない⇒正当性(合理性)を有しない、という論理構成になっているのです。

3.実務上のポイント
 本事案で、労使交渉にかけた時間は5年以上であるのに対し、Yが交渉の経過に見切りをつけて業務上の指示に従わないことを理由に出した懲戒処分はけん責処分にすぎませんでした。Yが労使交渉を尊重して非常に慎重に対応したことがうかがわれます。
 では、どの程度まで交渉の時間を短縮でき、どの程度まで懲戒処分を重くできるのか、が問題になりますが、残念ながら個別事案ごとに判断すべきことであり、直ちに結論を示すことはできません。
 しかし、誠実交渉義務を果たしたかどうか、ということと従業員側のルール違反の悪質性の程度が大きな要素になるでしょう。その意味で、大きな判断枠組みが見えてきた点が、この裁判所のツールとしてポイントと思われます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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