見出し画像

労働判例を読む#356

今日の労働判例
【学校法人国士舘ほか事件】(東京地判R2.10.15労判1252.56)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、学生28名の前で大学Y1や学長Y2を非難するなどした教員X1に対する懲戒解雇処分と、ゼミ合宿の費用清算を誤ったり、学生に卒論指導の際にハラスメントを行い、さらに2回留年させて卒業を遅らせたりした教員X2に対する降等級処分について、いずれも無効であると主張した事案です。裁判所は、いずれの請求も概ね認めました。

1.特徴
 裁判所の判断構造ですが、①Xらのいくつかの行為については、事実そのような言動があったと認定し、しかもそれらが懲戒事由などに該当すると認めつつ、②処分が重すぎるので無効、という構造になっています。
 例えばX1について見ると、Yらを非難する5つの発言は、①録音記録に基づき認定されました(学生が録音していた)。さらに、問題となる5つの発言内容について、いずれも社会常識に照らして考慮しても、Yらの名誉を棄損するものである、と評価しました。けれども、②聴衆が28人に限られているなどの状況から、懲戒解雇(又は解雇)とするのは重すぎる、と評価したのです。
 またX2についても、卒論指導や留年の決定について、①X2による行き過ぎた面があることを認めつつ、②当該学生も、授業を欠席がちだったこと等を考慮して、降等級とするのは重すぎる、と評価しました。
 このように、①不適切な言動の有無の問題(懲戒事由に該当する言動があったかどうか、等の問題)と、②それに対する処分の合理性の問題(重すぎないか、等の問題)を区別する判断方法は、例えば刑法に基づく刑事処分を検討する場合の判断方法(法律の規定に該当するかどうか、という「構成要件該当性」の問題と、処罰に値するかどうか、という「違法性」「責任」の問題を区別する判断方法)と共通する面があり、錯綜する議論を整理する判断枠組みとして、例えば会社内部での検討の際にも活用できる判断方法です。

2.実務上のポイント
 評価の程度として見ると、問題はより微妙になります。しかも、上記のとおり様々な事情を総合的に判断します。したがって、この事案だけで何か裁判所の傾向が読み取ることは難しいことです。
 けれども、特に上記②に関し、Xらが大学教員であることによる特徴があるように思われます。
 すなわち、研究者や教育者として専門性が期待され、その分与えられる裁量権も、一般のビジネスマンよりも広い場面が多いように思われます。このことが、例えば学生を2回留年させて卒業を送らせるなどの相当の影響のある判断をしながら、しかも降等級という、解雇や懲戒解雇には及ばない程度の処分でありながら、処分無効と評価されている大きな原因の1つではないか、と思われるのです。
 どのように思いますか?

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?