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労働判例を読む#403

今日の労働判例
【一般社団法人奈良県猟友会事件】(大阪高判R3.6.29労判1263.46)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、法人Yの経理担当者Xが、解雇を無効と主張し(本訴)、これに対してYが、Xは不当に諸手当等を受領していたとして、その返還を求めた(反訴)事案です。
 1審は、解雇を有効とし、返還請求も一部認容しましたが、2審は、解雇を無効とし、返還請求も否定しました。

1.元会長の判断
 1審と2審の結論が逆になっている最大のポイントは、当時の代表者Aが諸手当の支給を決めたかどうか、それが有効かどうか、という点についての評価の違いです。
 すなわち、諸手当は社内ルールとして定められていないものであり、また、支出を決めた会議の議事録も信頼できない(偽造されやすい状況にあり、偽造された疑いがある)、Xは不正に諸手当を受領した、というのが、1審の判断です。
 これに対して2審は、Aが支給を決定していたもので、その権限を有していたから、社内ルールとして定められたものでなくても有効である、議事録の偽造なども認められない、としました。
 たしかに、Aが採用を決めたXが優遇されていたのではないか、さらにX自身の不正もあるのではないか、と疑われていたようです。1審は、偽造それ自体は認定していないものの、Yの疑いを前提とした主張の多くを認めたうえで、上記のような判断をしたのです。
 けれども、やはり議事録の偽造を認定することができない状況で、代表者が行った判断を無効とし、それを前提にする解雇を有効とすることは、法的には無理だったのでしょう。1審の判断は、少し無理があったようです。

2.実務上のポイント
 Aの下でXが好き勝手やっているように思い、Aの死亡後、思い切ってXを解雇したようですが、解雇の合理性を裏付ける事情やプロセスが不十分でした。実務上、解雇が有効とされるためにどのような事情や資料、プロセスが必要となるのかを考えるきっかけとなる裁判例です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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