労働判例を読む#251

【日成産業事件】札幌地裁R2.5.26判決(労判1232.32)
(2021.5.12初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、不正を働いた、などの理由で会社Yかから懲戒解雇された従業員Xが、その無効を主張した事案で、裁判所は解雇を無効と判断しました。

1.会社の不正
 この事案で、Yの代表者は、退職を願い出たXに翻意させるために「懲戒解雇」をチラつかせたが、Xがこれに応じなかったところから、Yが、Yの取締役会議事録や社内決裁書類を偽造し、Xの懲戒解雇の意思決定やXによる不正の存在を不当に作出しました。
 ここまでやれば、懲戒解雇が無効になるのは当然ですし、XのYに対する損害賠償請求まで認容されるのは当然でしょう。
 先例として、特に独特なルールが示されたわけではなく、裁判所が丁寧に偽造された各資料の矛盾や不合理性を指摘し、積み上げている点が注目されます。この点を見ると、もっと上手に偽造すれば結論が変わったのか、と思うかもしれませんがそうすると例えば損害賠償の金額が高くなるなど、違った形でYが不利益を受けることになるでしょう。刑事事件として告訴するなどの方法もあったでしょうが、警察の力を借りなくても簡単に不正を証明できてしまった、ということでしょうか。

2.実務上のポイント
 ワンマン会社の社長の中には、従業員のことを、まるで奴隷のように思うがままに支配できると考えている人がいます。俺が金を出して養ってやっているんだという、ある経営者の本音を聞いたこともあります。
 そのような人の下では人心が離れ、人も離れていくことは当然で、実際にこの事案では、社長交代に伴って多くの従業員が退職しており、Xも一緒に退職するつもりが引き止められたという経緯があります。法律以前の問題であり、経営の基本ですが、経営者の品格の重要性が確認された事案と言えるでしょう。

※ 英語版

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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