労働判例を読む#235

【日本郵便(時給制契約社員ら)事件】最一小判R2.10.15労判1229.58
(2021.3.5初掲載)

 この事案❷(以下、「東京事件」と言います)は、日本郵便Yの期間雇用社員(有期契約社員)Xが、外務業務手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇、夜間特別勤務手当、郵便外務・内務業務精通手当について、正社員と不合理な差があるとしてその違法性を争った事案です。

 最終的に最高裁が判断を示したのは、❶佐賀事件と同じ夏期冬期特別休暇のほか、年末年始勤務手当、病気休暇の差ですが、全てについて合理性を否定しました。ここでは、❶佐賀事件との違いを中心に、検討します。旧労契法20条に関する用語の略称(「職務の内容」「変更の範囲」「職務の内容等」「制度の性質・目的」「合理性」「均等」「均衡」)は前回#234と同じですので、そちらもご確認ください。

1.①制度の性質・目的

 まず、年末年始勤務手当や病気休暇の性質・目的の認定です(夏期冬期休暇についてはこの点明確に判断されておらず、また❶佐賀事件と同様なので、検討しません)。ここでも、❶佐賀事件と同様、Yの立てた性質・目的そのものではなく、実際の制度の内容から認定しています。

 具体的に年末年始勤務手当については、年末年始の勤務に対し、勤務の内容や難度等に関わらず与えられる、という制度の実態を根拠に、「多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質」と認定しています(労判1229.64左下~右上)。

 また病気休暇については、長期継続勤務が期待される正社員に与えられる制度となっていることから、長期にわたり継続して勤務することが期待される社員の生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることで、その継続的な雇用を確保する目的、と認定しています(同右下イ)。

2.②合理性

 次に、この性質・目的に照らして合理的かどうかが検討されています。ここでも、❶佐賀事件と同様、「均衡」ルールが適用されています。

 具体的に年末年始勤務手当については、上記の性質・目的が有期契約社員にも妥当することを理由に、不合理と評価しています。

 また病気休暇については、有期契約社員の場合であっても、「相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当する」として、不合理と評価しています。

 なお、夏期冬期休暇については、①制度の性質・目的と②合理性について、明確な判断を示していませんが、Xに損害がなかったとした2審の判断が不合理として判断のやり直しを命じています(差し戻し)。

3.実務上のポイント

 ここでも、手当や処遇について、会社が設定した建前ではなく、実際の制度の内容や運用によって、性質・目的が認定される点が、会社にとって極めて重要です。当たり前のように思われる手当や処遇の性質・目的が、自分達の考えているとおり評価されることがないか、客観的な視点から検証することが重要です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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