労働判例を読む#289

【新日本建設運輸事件】
(東高判R2.1.30労判1239.77)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

この事案で会社Yは、経営方針に合わず反抗的な言動をしてきた従業員Xらに対し、会社が謝罪するか、解雇されるかの選択を迫りました。Xらが交渉継続を断念する意味で「もういいですよ」と発言しました。Yはこの発言を、Xらが自主的に退職する意向を示した、又はXらが解雇を受け入れる意向を示した、と主張しました。さらに、Xらが私物をまとめて直ちに会社から退出したことや、他社に転職して同水準以上の給与を得ていたことから、Yでの就労意思を失い、Yとの雇用契約も終了した(黙示の合意)、と主張しました。
 裁判所は、Yの主張をいずれも否定しました。

1.実務上のポイント
 裁判所は、Xらが面談の2日後の解雇無効を主張する通知書をYに送付していたことなどから、面談の際に自主退職や解雇受け入れをしていない、と認定しました。また、転職を何度か繰り返すなど、Y退職後苦労していたこと、生活のために転職は必要であったこと、などから、解雇受け入れの意思を認めることはできないとしました。
 従業員を不当に解雇した会社が、従業員の努力によって生活を立て直すことに成功すればその責任を免れてしまうということは、公平の観点から問題があります。また、解雇した従業員がその生活のために新たな仕事を見つけてくれれば会社の責任が無くなる、ということになれば不当な解雇が横行しかねません。
 その意味で、裁判所の判断は常識的であり、合理的です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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