労働判例を読む#25

「学校法人尚美学園(大学専任教員A・再雇用拒否)事件」東京高裁平29.3.9判決(労判1180.89)
(2018.11.23初掲載) 

 この裁判例は、65歳で定年となった専任講師が、70歳まで勤務できることを前提に、特別専任講師としての地位があること(すなわち雇用契約が継続していること)の確認などを求めた事案です。
 1審裁判所は、契約継続は否定しましたが、損害賠償請求は認めました。
 2審裁判所は、全て否定しました。
 実務上のポイントとして特に注目している点は、1審と2審で判断が逆になっている論点です。

1.ルール

 まず、ここで適用されるルールが問題になります(大前提)。
 裁判所は、労契法19条2号の趣旨が適用され、権限濫用の有無が判断される、という枠組みを示しています。
 細かく言えば、同条の「適用」ではなく「趣旨の適用」とはどういうことか、権限濫用にどのように影響するのか、なども技術的に整理すべき問題でしょうが、ここでは特に検討しません。
 というのも、一般に、権限濫用や信義則などの「一般条項」が適用される場合には、両当事者の事情を比較衡量することが中心となります。この事案で権限濫用が適用される場合には、特に19条2号を問題にしなくても、従業員側の事情として、雇用継続に対する期待の有無や程度、会社側の事情として、そのような信頼を与えてしまった原因や、継続しない合理性、などが比較衡量の中心となります。
 つまり、19条2号を問題にすることは、比較衡量する対象を明確にする意味はありますが、ルール自体に変更があるわけではなく、したがってこの事案では重要な問題ではない、と評価されるのです。

2.あてはめ

 1審判決は、従業員は契約継続を合理的に期待できた、として、主に4つの理由を指摘していますが、2審判決は、それを1つ1つ否定しています。
 要約すれば、教授会の推薦が最終決定でないことはルールとして明記されていること、このルールには大学教員の専門性に照らせば合理性があること、実際、定年後の再雇用の実績はわずかな例があるにすぎないこと、などがポイントとなります。

3.実務上のポイント

 有期雇用契約の更新拒絶に関し、労契法19条が示す「更新の期待」を認定されないための施策が色々と議論されています。
 この事案では、継続雇用されるか否かのプロセスはしっかり定まっていたものの、その評価基準は明確でなく、大学側に大幅な裁量が認められていました。
 そのことが、1審判決で合理的期待を認めた大きな理由になり、従業員側に有利な事情として扱われています。
 2審では、大学教員の専門性から、評価基準が曖昧でも許され、大学側に有利な事情として扱われています。
 このように、評価基準が明確でない、という事実は、同じ裁判官でも評価が分かれるほど微妙な問題です。継続雇用されるかどうかの評価基準は、できるだけ客観化し、適切な評価をもとにそのルールに則った運用を行うことが、この事件の1審判決で垣間見れたリスクを低減するうえで、重要と思われます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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