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労働判例を読む#349

今日の労働判例
【国(在日米軍基地従業員・出勤停止)事件】(那覇地判R3.7.7労判1251.24)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、米軍基地内で働く従業員Xらが、そのうち11名(X1~X11、空調設備などの機械工として、基地内の家族住宅のエアコンの修理を主業務としていた)については電化製品の廃棄物から部品を取り出して不当に転売する行為に関わったとして、そのうち1名(X12、食堂支配人)については交通事故という嘘の理由で仕事を休んだと思われる従業員にその真否を問いただす際に身体に触れたことが不当であるとして、それぞれ数日間の出勤停止処分が言い渡された事案です。Xらは、雇用主である日本政府Yに対し、当該処分の無効を主張し、裁判所もその請求を認めました。

1.法律関係
 本事案で注目されるのは、法律関係が複雑である点です。
 すなわち、Xらの雇用形態は「間接雇用方式」と呼ばれるもので、Yが雇用するものの、労務の提供は米軍などに対して行われる、というものです。Yが雇用するものの、国家公務員ではない、とされており、労基法や労契法の適用があります。
 雇用契約関係やXらとYの間であり、実際の労務提供は米軍基地内、指揮命令関係も米軍との間に発生しますので、「派遣」と似た形です。
 本事案では、米軍がXらに対して懲戒処分をせず、Yが懲戒処分をしましたが、これも派遣の場合と同様です。特にX1~11については、米軍側が「予定制裁を解雇とする」建議書をYに送付したものの、Yは解雇でなく数日間の出勤停止に止めました。
 懲戒権は、雇用契約にある当事者に固有のもので、派遣先が行使できないとされていることと、この点でも同様に扱われたのです。

2.実務上の問題
 けれども、X1~11については、実際に接種行為に加担したことが十分証明されていないこと(他の共犯者が少しでも自分の役割を軽く見せるために嘘をついた可能性があった)、X12については、無断欠勤の疑いのある従業員への言動として許容される範囲の身体接触であったこと(欠勤した従業員の車に事故の痕跡が見当たらず、問い質そうとすると逆切れして立ち去ろうとしたので腕を掴むなどの接触があったにすぎない)、等の理由から、懲戒処分は違法とされました。Xらについて、Yの側で調査することもできず、米軍から送付されてきた、詳細な内容が記載されていない資料だけで判断しなければならなかったことから、Yも米軍の想定した処分よりも軽い処分にすることでこの問題を克服しようとしたのかもしれませんが、それだけでは処分の合理性が認められなかったのです。
 この「間接雇用方式」は一般的な雇用形態ではないため、本判決が一般的に参考になる場面は限定的ですが、派遣労働者に対する懲戒処分の在り方について、派遣元が責任もって判断できるように派遣元が十分調査を行うべきである、という点は、参考にできることかもしれません。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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