労働判例を読む#267

【ヤマサン食品工業(仮処分)事件】富地決R2.11.27(労判1236.5)
(2021.7.1初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、コロナ禍での就業規則違反を理由として、会社Yが定年後再雇用者Xとの間の雇用契約を、その再雇用が始まる直前に解除した事案です。裁判所は解除を無効と評価し、Yに対して賃金相当額の仮払いを命じました。

1.法律構成

 この事案は、実態を見ると雇用継続を拒否していますから、更新拒絶の問題のように見えますし、形式面を見ると雇用契約の解除ですから、解雇権の濫用の問題のようにも見えます。

 けれども裁判所は、再雇用契約の解除の有効性の問題、としています。

 具体的には、①契約解除事由を制限的・限定的に狭く解釈したうえで、その狭い解除事由に該当する事情が存在しないこと、②このことからXには「再雇用されるものと期待することには合理的な理由がある」こと、③他方、YにはXを再雇用しないことについて「客観的に合理的な理由を欠(く)」こと、を根拠に、再雇用契約が存在していると判断しました。

 判断構造としては、②③を見る限り労契法19条の雇止めに関する判断枠組みと同様の判断枠組みとなっています(②が更新の期待に関する同条1号・2号、③が同条本文)が、①を見ると、一般的な契約解除の問題とされているようにも見えます。

 ①については、労働契約の解除が解雇なのですから、労契法16条や17条の問題として解雇の有効性を問題にする、という法律構成も可能と思われます。解除した時点ではまだ契約の効力が生じていないことから、典型的な「解雇」と少し状況が異なる点が、労契法16条や17条の適用を避けた理由かもしれません。

 あるいは、解雇の有効性に関し、まずは就業規則などの解雇事由に該当することが前提問題になるため、解雇事由該当性を問題にし、そこで解雇事由に該当しないと判断されれば、労契法16条や17条を問題にするまでもなく解雇を無効とする裁判例もありますので、それと同様の判断構造を採用したのかもしれません。

 しかしそうすると、解除権すら発生していないことになるので、①だけで結論が出てしまいます。②③をわざわざ議論する必要もなくなってしまいます。

 このように、①~③は、法律構成として見た場合には中途半端なものであり、契約解除の一般論、労契法19条、もしかしたら労契法16条・17条の寄せ集めのような法律構成となっています。

 けれども、法律上の根拠(①)、従業員側の事情(②)、会社側の事情(③)とバランスよく総合的な判断を行っているため、現実的な合理性の高い判断枠組みとなっています。

 このことを考えると、形式的には契約の解除だけれども、実態は契約更新の拒絶だから、その実態にも即した判断を行った、と整理するのが適切なように思われます。

2.解除事由の制限解釈

 YがXとの契約を解除した最大のポイントは、コロナ禍でYがせっかく確保した「除菌水」を、2回に分けて合計80ℓも持ち出して、自身が関与する福祉施設に提供した点です。特に、緊急事態時の事業継続計画(BCP計画)の責任者だったXが、コロナ対策に逆行する行動をとったことをYは重く見ているようです。また、発覚するとXは不自然な弁明を行っています。

 このことから、会社の施設・物品を適切に使い、私用に使わないこと、安全衛生のモラルを高めること、越権行為しないこと、などの規定に違反するとYは主張していました。

 これに対して裁判所は、高年法の趣旨に沿って就業規則などを解釈すべきであるとして、「年齢を除く解雇事由又は退職事由に該当する事情」だけが問題になる、としています。

 そのうえで、除菌水の持ち出しなどの上記各事情について解雇事由に該当するほど悪質な事情ではない、と評価しています。

 この判断構造を見れば、実質的には解雇権濫用の法理と同様の判断を行っているものの、それは解除事由の解釈や事実の評価という形で行われています。

3.実務上のポイント

 裁判所は、高年法が直接私人間の契約に適用されるのではないが、これに沿った解釈をするべきであると判示しています。その結果、込み入った判断構造となっています。

 これに対しては、高年者に沿った解釈をすれば、高年法を適用したことと同じになるのではないか、という反論もあり得るところです。

 しかし、仮にこの判決のような制限解釈をせず、就業規則などの解雇事由への該当性を認めたとしても、次にそれが解雇権濫用に該当するかどうか、すなわち労契法16条・17条、あるいは更新拒絶として同19条が問題にされ、高年法の趣旨に反した解雇・更新拒絶かどうかが検証されることになるでしょう。

 このように見れば、高年法が直接適用されなくても、いずれにしろ高年法の趣旨が運用に大きな影響を与えることが分かります。形式的に曖昧で分かりにくい判断構造となっていますが、どのような事情がどのように評価されるのか、という観点から見れば高年法の趣旨に沿った判断がされることが明確に示されたものである、と評価できます。

 ここでは高年法が問題になりましたが、労働法ではその他さまざまな特別法が制定されています。妊産婦、育児、介護など、様々な社会的要請がルールとして具体化されていますが、それらについても同じように、解雇や更新拒絶の際にその趣旨が反映されることになるでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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