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労働判例を読む#4

「信州フーズ事件」佐賀地裁平27.9.11判決(労判1172.81)
(2018.7.27初掲載)

 この裁判例は、業務中に交通事故を起こした従業員が、事故の相手方に対して損害賠償を行った場合に、会社に対して、従業員が支払った賠償金の7割分の支払いを命じた事案です。実務上のポイントとして特に注目している点は3点あります。 

1.賠償金の分担

 条文(民法715条)は、賠償金を支払った使用者から、事故を起こした従業員に対して、賠償金を求償できる旨が規定されています。
 けれども、全額ではありません。
 条文上は明記されていませんが、使用者が求償できる金額は、「信義則上相当と認められる限度」に制限されます(「茨木石炭商事事件」最一小判決昭51.7.8)。判例によって作り出されたルールです。
 悪いのは従業員だから全額請求しろ、という使用者は、今でもいますが、使用者は自動車保険をかけたり、業務量を調整して無理のないシフトを組んだり、従業員の力量に応じた配慮をしたり、不足している人員を補充したり、など、従業員が事故を起こさないような環境を整えるべきである、と評価されるのが現在の社会であり、したがって全額求償は許されない、というのが現在のルールなのです。

 2.逆求償の可能性

 さらに、この裁判例により、従業員から使用者への逆求償も認められました。
 どちらが先に支払うかによって結論が異なるのは、ルールとして合理的ではなく、この結論自体に特に異論はありません。

 3.誰が示談交渉の主導権を握るか

 しかし、本件よりもより高額な賠償義務が生じる場合で、従業員が事故の相手方と結託して実際よりも高額な損害賠償を約束してしまう恐れがある場合はどうでしょうか。それなりの証拠が揃えられて、示談が成立してしまえば、それが不正であることを立証するのは容易ではありません。
 そこで、保険に入っている場合には、保険会社の示談代行によって処理する、として保険会社に示談交渉をさせ、保険に入っていない場合には、使用者責任を果たす、として使用者自ら(あるいは使用者が雇った弁護士)が示談交渉を行うことが必要となるでしょう。
 それでも、従業員と事故の相手方が示談交渉を進めるようであれば、会社は両者を相手方とする訴訟(形式的には債務不存在確認訴訟になるでしょう)を提起し、公的な場での議論と証拠に基づく判断を求めることになるでしょう。

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※ 社労士向け・JILAの研究会(東京、大阪)で、それぞれ、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が書籍になりました!しかも、「労働判例」の版元から!



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