労働判例を読む#378
今日の労働判例
【大器キャリアキャスティングほか1社事件】(大阪地判R3.10.28労判1257.17)
※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK
この事案は、ガソリンスタンドKの夜間業務の担当者を派遣している会社Yに勤務する従業員Xが、さらに、派遣先のK自体とも労働契約を締結(二重契約)していた事案です。YはXの勤務状況に問題があることから更新拒絶したところ、Xは更新拒絶の有効性や、自分自身がハラスメントを受けたと主張しました。
なお、本事案では、長時間勤務等を理由に適応障害が発症したとして労災も認められています。労災の金額算定について、Xは、Yでの勤務時間だけでなくKでの勤務時間も加算するよう求めた裁判がなされ、この追加支払いの請求を裁判所が否定しています(「国・大阪中央労基署長(大器キャリアキャスティング・東洋石油販売)事件」大阪地判R3.12.13労判1265.47)。
裁判所は、Xの請求を全て否定しました。
なお、上記別件訴訟(労災の追加支給)では、Xの適応障害と会社業務との間の因果関係(業務起因性)がある、と評価されており、本事案でもこの適応障害に対するYの責任が問題とされました。本判決は、更新拒絶が有効である、という下記理由とほぼ同じ理由でYの「過失」を否定し、Yの請求を否定しています。別件訴訟で認められている「因果関係」については触れずに、「因果関係」とは別の要件である「過失」の判断だけをしてXの請求を否定したことになり、2つの判決相互の理論的な矛盾は回避されていますが、この点についてはここでは検討しません。
1.二重契約
副職が徐々に認められつつある中で、二重契約自体を更新拒絶の根拠とすることは容易ではありませんが、本事案では、Xは、YとKの間で区別していた業務(カードの販売など)について、販売実績を獲得するために区別に反する言動をしたり、他の従業員を排除して無理に自分のシフトを入れたりするなど、問題のある言動が数多く認定されました。Xは、二重契約についてYの側から勧められ、あるいは了解されていたと主張していますが、裁判所はこのような事実を否定しました。
他方でXは、二重契約によって長時間労働を強いられた点も、例えば健康配慮義務に違反する、などとしてY・Kの責任を主張しました。しかしこの点も、Xが自ら二重契約をしたのであって、Yはむしろこの状況の改善をXに勧めていた、などとしてY・Kの責任を否定しました。
今後、副職が広く認められるようになれば、Xのような言動を取る従業員、すなわち、お金が欲しい時には自ら積極的に仕事を求め、しかも二重契約であることを隠して長時間働いているのに、一たび会社とトラブルが発生すると、二重契約を隠れ蓑に長時間働かされた、と主張するような従業員が、様々な形で表れてくるかもしれません。
本事案では、会社側が不当な二重契約の解消をXに勧めるなど、適切に対応していたことから会社側の責任が否定されました。従業員の副職を認める際に、考慮すべき問題は沢山あり、本事案のような問題に対する対応まで気が回りにくいでしょうが、本事案を参考に、副職を求める従業員の管理の在り方について検討を深めてください。
2.実務上のポイント
Xの主張を裏付ける事情の1つとして、会社側がXとの面談の状況を無断で録音していたことの違法性が争われています。
裁判所は、面談設定の経緯やそれまでのXの言動を理由に、しかもこれらを詳細に繰り返し指摘するのではなく、非常に簡潔に指摘するだけで合理性を認定しています。
近時は、例えば交通事故に関する訴訟でも動画記録が裁判で大きな役割を果たしており、会話や動画それ自体の記録がどんどん公開されていく傾向にあります。スマホでも簡単に録音されてしまいますから、管理上、全ての会話が公開される可能性のあることを意識しなければならない時代になってきたのです。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!