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労働判例を読む#429

【学校法人茶屋四郎次郎記念学園(東京福祉大学)事件】
(東京地判R4.1.27労判1268.76)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 本事案は、言動に問題のあった教員X(1年ごとの有期雇用契約)を学校Yが雇止めした事案です。裁判所は、Xが教員としての地位を有することなどを認めました。

1.更新の期待(労契法19条2号)
 裁判所は、労契法19条の構造に沿って判断しています。すなわち、まず19条2号が適用されることを認定し、次に19条本文が適用されるかどうかを検討しているのです。
 なお、19条1号についての検討は、文言上は行っていませんが、一般的に下記③の事実が、1号の適用を否定すべき事実ですから、1号の適用は実質的に見て否定されたと評価できます。
 ここで、2号が適用されるとした事情を要約してみましょう。
 すなわち、①Xの担当課目は、X退社後も存続していたこと、②状況に応じて更新や無期転換が予定されていたこと、③期間満了半年前に契約更新の意向確認をするなど、厳格に更新手続きが行われていたこと、④YがXの契約更新を前提とした研究計画(文科省に提出)を承認していたこと、⑤たしかに譴責処分や厳重注意があったが、それがあっても更新をしてきたこと、が2号適用の根拠として挙げられた事情です。
 特に⑤については、次の更新拒絶の合理性判断の際には、Yにとって有利に働くべき事情ですが、この更新の期待の判断の際には、Yにとって不利に働くべき事情となっている、と評価できるでしょう。

2.更新拒絶の合理性(労契法19条本文)
 裁判所は、Yの主張する理由❶~❹について、その有無や程度を詳細に検証したうえで、さらに、それが合理的かどうか(「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」かどうか)を検討しています。
 すなわち、❶けん責に相当する行為があり、譴責処分が合理的であること、❷厳重注意に相当する行為があり、厳重注意が合理的であること、❸勤務態度が不良と評価すべき言動のうち、いくつかは認められること、❹教員として相応しくないと評価すべき言動のうち、いくつかは認められること、を認定し、更新拒絶の根拠があることは認めました。
 けれども、❶~❹それぞれについて、更新拒絶の合理性が認められる程度かどうかを、再びそれぞれ詳細に検討し、いずれにも更新拒絶の合理性が認められない、と評価しました。
 このように、更新拒絶の合理性の判断は、不当な言動があったかどうか、という事実認定の問題と、それが更新拒絶の合理性を基礎づける程度のものかどうか、という評価の問題の2段階で行われている点が、実務上も議論を整理するうえで参考になります。
 なお、技術的なことで、実務上の影響はないように思いますが、この2段階の評価について、第1段階(事実認定)を上記労契法19条柱書の「客観的に合理的な理由」、第2段階(評価)を「社会通念上相当」、とそれぞれ位置付ける整理の仕方もあり得ます。しかしこの判決は、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」を分けることをせず、両者を一体として第2段階の問題と整理しています。労働法の研究者の間では、前者の整理方法が有力な考え方のように思われます。

3.実務上のポイント
 本事案では、Xが7年勤務していたことから、労契法18条に基づいて無期転換されるのではないか、という点も問題とされました。
 けれども、教員任期法7条が、「教員」の場合の無期転換に必要な期間について、労契法18条の定める5年を10年に延長しており、この規定によって無期転換されない、と判断されました。
 同様の規定として、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」15条があり、ここでは「研究者」について、同様に無期転換に必要な期間を10年に延長しています。このイノベーション法の適用が問題になった「学校法人専修大学(無期転換)事件」(東京地判R3.12.16労判1259.41)では、語学の講師が「研究者」でないとして適用が否定されましたが、ここでのXについては、教員任期法の「教員」に該当するとされ、イノベーション法の検討は省略されています(必要が無いからでしょうか)。
 教員や研究者が、5年の間際に更新拒絶されるような不安定な状況を解消し、教育や研究に専念できる環境を提供する、というのがこれらの規定の趣旨のようですが、不安定な有期雇用契約の期間を延長するだけであり、法の目的に沿ったルールなのかどうか、疑問を感じます。
 また、専修大学事件の方では教員任期法が議論されていませんが、それがなぜなのか、現在のところ理由がよくわかりません。
 教員や研究者の有期雇用契約の更新拒絶に関し、議論すべき論点がいくつか残っていることが分かってきた、というのが現在の状況と言えるでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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