労働判例を読む#229

【バンダイ事件】東京地裁R2.3.6判決(労判1227.102)
(2021.2.12初掲載)

 この事案は、アルバイト・パート・準社員として、12年14回、契約更新してきた有期契約社員Xが、会社Yによる更新拒絶を無効と主張した事案で、裁判所は、更新拒絶を有効としました。

1.労契法19条

(有期労働契約の更新等)

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

  一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

  二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 まず1号に関し、裁判所は、「過去に反復して更新された」に該当するとしつつ、更新の際に、担当業務も含めて契約内容の変更を行っていたこと、更新は必要があれば行う旨の記載があること、などから、無期契約と社会通念上同視できない、としました。

 注目されるのは2号です。

 まず、判断枠組みとして、①更新回数や通算期間、②雇用期間管理の状況、③雇用の臨時性・常用性、④契約更新の経緯、⑤使用者の言動などの事情により、⑥「どのような内容の期待を持つのが通常であるのかを具体的に認定・判断する」としました。このうち、①②④は、1号で考慮された事情と重なりますので、③⑤⑥が2号固有の問題と言えるかもしれません(⑤は1号でも問題になりえますが)。

 この中で、特に注目されるのは⑥です。

 裁判所は、Xの業務がサンプル発送、物流実績入力、庶務等であり、基幹的業務に当たらず、求められる能力も高度なものではないこと、量的にも一人の従業員に集約できる程度であること、Xの業務が減少したのは臨時的な面が現実化したものであること、から、Xの業務は臨時的な面があった、と認定しました。ここまでは、③に該当するかどうかの検討です。

 このように見ると、③に関して消極的な認定がされた(基幹業務ではなく臨時業務と認定された)のですから、更新の期待が否定されそうにも見えます。実際、基幹業務でないことを理由に更新の期待を否定した裁判例も存在しますし、この事案でも、更新の期待は「具体的内容を有する」ことが必要、という条件が示されています。

 けれども、ここでは更新の期待を否定するのではなく、更新の期待が肯定されました。

 とは言うものの、そこでの更新の期待は無条件な更新の期待ではなく、「その労働条件に内容や分量が見合うような担当業務をY社内に確保することができれば本件雇用契約は更新される」という条件付きの更新の期待です。

2.実務上のポイント

 条件付きとはいえ、更新の期待が認められましたから、労契法19条本文の規定(同16条の解雇権の濫用と同様)により、客観的合理的理由・社会通念上の相当性の有無が吟味されました。裁判所は、YがXに対して業務レベルを上げるように機会を与えたが、Xが「真摯な努力」をしなかったことなどを認定し、更新拒絶を有効としました。ここで用いられた判断枠組みは、解雇権濫用の判断枠組みと同様で、❶雇止めの必要性、❷雇止め回避努力、❸手続きの相当性ですので、従前の判断枠組みがここでも再確認された、と評価できるでしょう。

 実務上特に注目されるのは、条件付きの更新の期待が認められた点です。これまでの裁判例で言えば、「もし仕事があれば」更新する、という場合には、更新の期待自体が否定されたように思われるのですが、ここでは、更新の期待を条件付きで認めつつ、さらに、客観的合理的理由・社会通念上の相当性を、この条件付き更新の期待の前提で吟味する、という構造を採用しました。

 また、更新の期待は、抽象的で漠然としたものでは足りず、「具体的内容を有する」ことが必要、ということも示されました。

 このように、「更新の期待」は、従前「有るか無いか」の二者択一的な扱いがされてきましたが、この裁判例により、条件の内容が具体的であれば条件付きの更新の期待が認められ、更新拒絶の相当性が慎重に吟味されるという判断方法が示されました。

 会社と従業員の関係をより緻密に検証する判断方法として注目されるとともに、会社としては、更新の期待が認められないはずだ、と簡単に決めつけずに、条件付きであっても更新の期待が認められる可能性があることを前提に、更新拒絶のためのプロセス(この事案では、Xに新たな仕事を獲得する機会を与えたことなど)を適切に踏んでおくことが重要なポイントになるでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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