労働判例を読む#307

今日の労働判例
【巴機械サービス事件】(横地判R3.3.23労判1243.5)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、男性=総合職、女性=一般職という状況が定着している会社Yの人事制度に関し、女性の一般職員2名、Xらが、違法な性差別であると主張し、争った事案です。
 裁判所は、Xらの請求の一部を認めました。

1.何が違法か
 ここで注目されるのは、裁判所が違法と評価した部分が何か、という点です。
 まず、違法ではない、とされた部分です。
 裁判所は、総合職と一般職に分けていること、総合職は全て男性、一般職は全て女性という状況にあること、Xらを一般職として採用し、一般職に配属したこと、については、それだけでは違法でないとしました。この点での最大の根拠は、業務の内容として現場業務を行う総合職と、そのサポートとなる事務職を行う一般職の区別自体は、会社の人事制度上許容されるものであること、Xらには現場業務の経験がなく、実際に事務職を担当したこと、です。
 他方、裁判所が違法と評価したのは、Xらに総合職に職種転換する機会を実際には与えていなかった、そのことで「総合職は全て男性、一般職は全て女性」という状況を固定化していた、という点です。このような状況を固定化することが違法なのであれば、採用や配置の段階でも違法になりそうですが、採用や配置の段階では一般職を女性に限定しようとする意図が認定できなかった、とされています。
 この点は、Yの業務が遠心分離機の設置業務やメンテナンス業務を行うという点で、特殊な機会に関する知見が要求されることも影響しているのでしょうか。特にメンテナンス業務については、医療機関からのリクエストがあれば昼夜を問わず対応しなければならない面もありそうですから、家事を女性が担当する、という風潮の強い日本ではなかなか女性に任せられない、ということかもしれません。
 けれども、このような一種の固定観念事態を打破するのが雇用機会均等法の目的の1つのはずですから、この判決のように、結果的に女性しか一般職に応募がなかった、等のような理由が今後も通用するのか、むしろ、女性の総合職枠や男性の一般職枠を設けて積極的に不平等な状況を改善すべき措置まで求められることもあるのではないか、が問題になるでしょう。実際、アメリカの平等政策については、Affirmative actionと称される施策が求められる場合があります。これは、例えば大学の入学試験の定員に関し、少数者の枠を独立して設けるように、積極的に少数者に機会を与える施策のことです。この施策には、アメリカ国内でも、少数者を過度に保護する不平等な施策であるという批判がありますが、少数者が少数者として固定化されてきた歴史と現状を改めるために許容される、と評価されています。
 このように、結果的に「総合職は全て男性、一般職は全て女性」という状況が発生したに過ぎない、という本判決の論法は、必ずしも普遍的な議論ではないことを理解しておきましょう。

2.実務上のポイント
 日本では、人手不足のために女性などの人材活用が必要となってきており、「総合職は全て男性、一般職は全て女性」という現状を、会社自身が変えていこうという外的な要因が働き始めています。その際、家庭での男女の役割分担などの社会的な風潮や認識まで関わってくる問題であることを理解する必要があります。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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