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労働判例を読む#564

今日の労働判例
【オフィス・デヴィ・スカルノ元従業員ら事件】(東京地判R5.11.30労判1301.5)

 この事案は、メディアなどで著名な「デヴィ夫人」Xが、自ら雇っていた従業員らを代表して、コロナ禍での在宅勤務を申し入れたYらに対し、Xの社会生活を阻害し、侮辱した、として損害賠償を求めた事案です。
 裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.申し入れの合理性
 Xは、タレントとしての事業に関する業務だけでなく、日常生活での生活補助・家事業務なども行うために、住み込みも含む従業員数名を雇用していました。
 当時は、コロナ禍で、緊急事態宣言が発令され、外国からの入国者には、14日間の宿泊施設での待機などの要請に応じる旨の誓約書の提出が求められていた時期ですが、娘婿の葬儀に参列するために、Xはバリ島に渡航してきたのですが、従業員らが、コロナ感染を恐れ、帰国したXに対し、在宅勤務を申し入れました。
 これに対してXは激高し、自分を病原菌扱いした、従業員を先導して「共同絶交」した、と主張し、本件訴訟に至りました。
 裁判所は、Yらが従業員らに「共同絶交の合意を形成」させたわけではなく、当時の状況(特に、インドネシアでは一日の感染者が1万人を超えていた)や、従業員らがXの自宅で勤務していた状況を考慮すれば、検査結果が陰性だったとしても、在宅勤務の申し入れは不合理でない、としました。

2.実務上のポイント
 従業員らは、当然の権利として在宅勤務を要求したわけではなく、その希望を伝えただけですから、在宅勤務が権利として認められるか、あるいは在宅勤務の禁止が権利濫用に該当するか、などの点についての判断は示されていません。
 今後、緊急事態宣言が発令されるような事態が生じた場合に、在宅勤務を認めなければならないのかどうかについての参考にはなりませんが、そのような勤務形態を希望する従業員の申し入れを違法と評価されないことは示されたので、従業員からの在宅勤務の希望を全く聞かないようなことは、難しい、という判断が示された事案、と評価することが可能でしょう。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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