労働判例を読む#256

【前原鎔断事件】大阪地裁R2.3.3判決(労判1233.47)
(2021.5.21初掲載)

YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、会社Yの工場で13年以上勤務してきたXが解雇されたことに対し、解雇無効、パワハラ、サービス残業を主張した事案です。裁判所は、一部の残業代請求を認めましたが、それ以外のXの請求を全て否定しました。

1.解雇
 Xは、大きなトラブルを常に引き起こしてきました。
 具体的には、H18製品処理中の負傷、H19に製品処理中に負傷、H22に解体作業中に負傷、H26に大型クレーン作業中に負傷(大型クレーンの使用を禁止された)、H22~H25の間の上司や同僚とのトラブル(6回)、H26に仕上げ作業をさせるように要求しながら完成させられなかった、同年に指導を受け入れずトラブルを起こしてけん責処分、H27同僚とトラブルを起こし始末書提出、H27大型クレーン禁止に反して操作し接触事故を起こし始末書提出、H28年同僚とのトラブルで機器を破損、H30飲酒して出社、H30クレーン誤操作(4回)、という状況です。
 さらに、指示を確認しなかったり、指示を遂行できなかったりする小さなトラブルも、頻繁に引き起こしていたようです。
 このような状況で、解雇が有効とされるのは当然と言えるでしょう。

2.パワハラと残業
 さらに、Xは歴代の上司の言動についてパワハラに該当すると主張しています。
 しかし、いずれも上記トラブルに関連する注意であるなど、パワハラに該当しないことは当然と思われますが、裁判所はいずれの主張に対しても、非常に丁寧にパワハラ非該当の理由を説明しています。
 他方、Xに仕事を覚えてもらうために組合が提唱して始まった勉強会については、Xの参加が前提であり、指揮命令下にある時間と評価されました。

3.実務上のポイント
 組合も巻き込んで抵抗し、業務態度も改めようとしないXに対し、Yの忍耐の糸も切れた、というのが本事案の実態のように思われます。人事考課などが事実として認定されていないことから、Xの能力や業績を客観的に評価せずにきたのでしょうか。
 解雇を労働契約の解除としてみると、従業員の能力や業績は、従業員のサービス提供義務という本来的な債務となります。したがって、能力や業績が悪いということは本来債務の不履行となるのに対し、指揮命令違反やトラブルなどのエピソードは付随義務違反となりますので、契約解除の場合には後者の方が重大性・違法性の証明が大変になります。
 したがって、Yとしては、従業員に対する人事考課やフィードバックの制度を作って運営し、Xに対する適切な評価をしていれば、Xのコントロールや、場合によっては解雇も、もう少しスムーズにできたかもしれません。

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