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労働判例を読む#459

【学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダム(抗告)事件】(福岡高決R4.2.28労判1274.91)

※ 司法試験考査委員(労働法)

 この事案は、北九州から福島への配転命令を出されたXが、学校Yに対し、配転命令が無効であるとして福島で勤務する義務のないことの確認を求めた事案です。仮の判断を求める仮処分手続きであり、裁判と異なって終局的な判断ではありません。

1.保全の必要性
 裁判所は、一般的な人事権濫用の有無に関する判断枠組みではなく、保全の必要性があるかどうか、という観点から検討しています。
 その中で裁判所は、Xに福島での居住費の一部が自己負担であり経済的負担があることを認めつつも、給与は従前どおり維持されることから、経済的負担がそれ以上ではないとしました。さらに、Xが独身であることや北九州で授業を担当していないことから、転居できない「特段の事情」がないとしました。
 そしてこれらの事実により、「(Xに)著しい損害又は急迫の危険が生じるとはいえ(ない)」として、保全の必要性を否定し、Xの請求を否定しました。
 判断の基礎となる事情が少ないように思われますが、配置転換権の濫用を基礎づけるべき事実が少なかった、ということでしょうから、裁判所の判断は合理的と思われます。

2.実務上のポイント
 この事案では、Xは、一度Yに解雇されたものの、訴訟によって解雇が無効と判断されたために職場に復帰していました。
 職場復帰したXについて、配置転換をYが命じた背景事情は分かりませんが、同じように解雇が無効と判断されて職場復帰した従業員を配置転換したところ、本事案とは逆に、配置転換を無効と判断した裁判例もとして、 「ジャパンレンタカーほか(配転)事件」津地裁平31.4.12判決(労判1202.58、労働判例読本247頁)があります。
 そこでは、配置転換できない内容のアルバイト社員(地域限定)について、職場復帰後、契約を更新する際に配置転換できる内容に改められており、会社はこの規定に基づいて配置転換を命じたのですが、そのような変更の合意が認められない、と判断したのです。さらに、(本来は検討する必要は無いのですが)配置転換命令事態についても、濫用されたものであり、無効である、と判断しました。
 本事案と比較してみると、本事案で問題にされた従業員の不利益に関し、ジャパンレンタカー事件では、鈴鹿市から名古屋市への配置転換であり、近鉄特急の交通費も支給するというもので、不利益の程度もかなり小さいように思われます。
 それでもジャパンレンタカー事件で配置転換が無効と評価されたのは、職場復帰した従業員が鈴鹿の営業所で適切に業務遂行するためのサポートや指導教育などが不十分であり、改善の機会を与えなかった点が、大きな理由と思われます。
 実際にジャパンレンタカー事件判決と本判決を読み比べていただければ、両者の違いについてより詳しく理解できると思います。
 解雇が無効とされて職場復帰した従業員の処遇は、会社として一度縁を切ったことがあるだけに、しこりが残ってなかなか難しいものです。その方法として、本事案やジャパンレンタカー事件のように配置転換をすることが考えられるのですが、本事案の結論だけから配置転換が容易である、と安易に考えないようにしてください。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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