労働判例を読む#170

「しんわコンビ事件」横浜地裁R1.6.27判決(労判1216.38)
(2020.7.17初掲載)

 この事案は、週6日48時間勤務を前提に給与を支払っていた会社Yに対し、従業員らXが、給与の未払があるとして、その支払いなどを求めた事案です。実際の勤務時間の認定や、管理監督不行届きを理由とする給与の減額の可否(否定)、管理監督者性(否定)、健康保険料の不適切な控除などの問題もありますが、ここでは、週40時間を超える部分の取扱いについて検討します。
 裁判所は、週5日40時間勤務を前提に引き直した計算を行い、差額の支払いなどを命じました。

1.是正方法

 Yは、週6日分の給与が支払われていたのだから、①1日分のうち割増賃金部分だけXが請求でき、仮に全額支払うのであれば、1日分は不当利得となる、②基礎賃金も、5/6で計算し、1/6は固定残業代の合意があったと解釈すべきである、と主張しました。
 しかし裁判所は、週40時間を上限とする労基法32条1項の規定に違反した場合の契約の内容は、同13条の規定による、具体的には、「賃金の定めが修正され、被告から原告に対し、時間外労働に対応した賃金が支払われたとみるべき事情はうかがわれない。」としました。

(この法律違反の契約)
第十三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

 具体的には、週6日勤務で年間所定労働日数が309日とされていたところ、1日8時間分長かったのだから、365日÷7=52日分を引いた、309日-52日=257日が年間所定労働日数であり、257日×8時間÷12ヶ月=171.33時間が、月所定労働時間になる、と示しました。
 つまり、月給を171.33時間で割った金額が、基礎時給となりますので、週40時間を超える部分について、この基礎時給×1.25(通常の残業の場合)の金額を支払うべきことになります。
 さらに、これが前提となって、有給休暇や欠勤控除の再計算が行われ、清算が命じられています。

2.実務上のポイント

 実際には、時給が先に決まり、そこに週6日48時間として月給を計算しているとしても、労基法13条で無効になるのは労働時間部分だけです。なので、月給はそのままに、しかし想定すべき勤務時間が週5日40時間に置き換えられる結果、①1時間当たりの「時給単価」が上がり、②「残業時間」も増加します(48時間超→40時間超)。さらにこの事案では、③退職までに清算されていなかったことから、賃確法によって「遅延利息」が14.6%となり、④Yは「労基法軽視の態度が著しく、賃金未払は悪質」と評価され、未精算分の8割程度の「付加金」が課されました。
 このように、労基法の定めるルールを守らない場合に、会社が負担する義務は、その何倍にもなります。雇用条件は契約で決まるのだ、自己責任だ、と言っても、法が定める最低限の基準は守らなければならないのです。

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※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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