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2020村尾塾開講の趣旨(村尾弁護士コメント)

香港契約法勉強会にご参加いただく皆さま

芦原先生(👈何時もクラス同窓会などの世話役を買ってくれていて、心より尊敬しています)と47期9組でクラスメートである村尾と申します。この度は、多数のご参加申込み、誠にありがとうございます。

昨日、勉強会の方法は、芦原先生からnoteで簡単にご紹介いただきましたが、私からも補足して説明を差し上げることをお許しください。

一、 勉強会の方法論

1、 初回2020年2月15日の3時間の勉強会について
まず、2月15日(土)ですが、参加者各位(当日欠席の方は別途お届け致します)には、複数ある香港契約法の教科書のうち、最も分量的に少ない(p.479)“CONTRACT LAW in Hong Kong”(Third Edition by Michael J. Fisher)(Michael J. Fisher, Desmond G. Greenwood)を差し上げます。当日は私が別途作成する300ページ程度の日本語による香港契約法Q&Aを利用し、例えば①そもそも(common law及びrules of equityを含む)香港法とは何か、②contractとagreementは何が違うか、③contractの構成要素は何か、④contractの構成要素に違反した法律効果は何か(contractの構成要素ではないrepresentationに違反-misrepresentationの法律効果は何か)-common law remedyとequitable remedyというような、とても基本的な事項について解説致します。その基本理解に立脚して、教科書を読めば、とても簡単に教科書全体を読めると思います。読む際の地図を示す、ということです。欠席者には、音声データを別途提供しますし、参加者でも復習用に欲しいという場合、同様の措置を講じます。
2、 第2回目以降の勉強会について
第2回目以降は、事前に香港法上の権威的先例(case authority)の判例全文を1つ、又は複数お渡しし、そのうえでそのcase lawを前提として、特定の契約条項について、深く学習する方法論を採用する意向です。例えば第2回目では、England and Wales Court of Appealのcase authorityであるFulham Football Club (1987) Ltd v Richards and another [2011] EWCA Civ 855を題材として、仲裁条項(arbitration clause)は契約当事者の裁判権をどこまで制限することができるかという仲裁条項の射程範囲論について、検討することを計画しています(同時に、shareholders agreementにおいて常にarbitration clauseを設定するのは、合理か否か-minority protectionの観点からは不合理ではないかとの問題提起-という問題や本質的に免責条項exemption clauseの法的性質を有するarbitration clauseにはなぜ限定解釈手法としてのcontra proferentemの法理が働かないのかという問題も検討します)。
3、 勉強会が目指すもの
 1月に1回限りで、総数に制限のある環境下で、香港契約法という深遠な世界を全部網羅することなど到底期待できません。そこで、勉強会では上記1、及び2、を通じて、香港契約法に基づき契約をreviewしたり、draftしたりする場合の基本的発想、着想を得る手掛かりが各位に形成されることを目指します。おそらく1年間やり通せば、common law圏の弁護士の発想は理解できるようになり、(今まで彼らとのcommunicationで隔靴掻痒の思いを抱いていたとしても、)質疑応答は噛みあうようになる、と思う。
4、 勉強会と次回勉強会の間のdiscussion
 勉強会は参加者が現時点で70名を超えていることに鑑みて、一方的な講義形式となる可能性が高いと推測しています(少数者のみのゼミ形成と異なります)。そこで、ご質問はメールで頂戴し、私が必ずしも全て正確に回答できるとは限りませんので、場合により私が所属するLi & Partnersや場合によりバリスタ―の助力も得ながら、回答し、又は確定的結論が出ない問題については、何が問題であり、どう考えればよいかという点のみ明らかにできればと存じます(👈common law世界では、caseがない限り、推測で物を言っても相手にされない「帰納法ワールド」ですから、多々こうした場合があると認識しています)。

二、 講師の能力的限界とその克服に向けた従前及び今後の工夫

1、 最初の勉強会募集メールでご紹介いただいたとおり、私が専門と自負し、最も敬愛するのは中国(大陸)法です。中国と中国人が好き過ぎて(👈日本社会で相当minority)、ライフワークと心を決めているほどで、平素から日中友好草の根活動を地道に行っています。
2、 しかし、2007年時点で中国が当時、傲慢になり過ぎており、将来、必ずダウンサイドリスクに見舞われる時が来ると確信し、第二の専門を持つ必要を感じて、2008年~2016年に香港に居住する中で、偶々Overseas Lawyers Qualification Examination(以下OLQE)に合格でき、しかも2008年以来、ずっとLi & Partnersと仕事をしてきたので、香港法実務(及び他のEngland and Walesに系譜を有するcommon law実務)を11年間経験してきたバックグラウンドがあります。
3、 もっとも、いかなる中国律師とも対等に中国語で議論できる、専門である中国(大陸)法との関係では、私のcommon law知識は確実にレベルが落ちます。なので、本来はこのような勉強会を開催する資格があるか、相当悩みました。
4、 その悩みを解消するため、①2017年~2019年に2年間かけて、クライアントである5社の法務部の方々と20回にわたる香港契約法勉強会を開催し、私が話す内容が実務に役立つか、確認しました。また、②2019年3月~同年10月まで、同じくクライアントである1社の法務部で、かつ、弁護士資格を有する方がOLQEに挑戦することを決心されたので、5つの論文試験の中で最難関の不動産法(Conveyancing and Property Law)の勉強会を全部で25回開催し、同様の確認を行いました。さらに、③2018年、2019年の2年間、船井総研で弁護士向け渉外ゼミ(英語)を8回開催し、同様の確認を行いました(参加者は毎回10名~20名)。この3つの経験を通じて、上記3、の制約にもかかわらず、間違いなく、私の知識と経験は、common law弁護士としてなお未熟であっても、日本法との相違を踏まえて、日本人に日本語でcommon lawの基礎をご理解いただくのに役に立つと確信するに至りました。決して、皆さんにモルモットになっていただくわけではありません。ですから、お時間を無駄にしない約束は致します。
5、 さはさりながら、複雑怪奇で本当に難しいcommon lawについて、繰り返し、私の能力は限定的です(日本の弁護士の中では、偶々、日本法と英系common lawに両方通じている専門家が僅少なので、相対的に競争優位があるにすぎません)。ゆえに、私が正確な回答をできない部分は、経験豊かな香港ソリシター又はバリスタ―の助力を得て、回答する努力を致します(上記一、4、参照)。

三、 最後に、なぜ、無償で勉強会を開催するのか

1、 最後に、なぜ、私が無償で勉強会を開催するかについて、疑問を抱く方もおられるかと存じますので、解説します。まず、この勉強会開催は、新たなクライアント獲得を狙った営業的色彩は完全にゼロであるとご理解いただければと存じます。現在でも私は毎月必ず300時間近いbillable chargeをこなしており(👈仕事が大好きだから、という単純な理由です)、弁護士全体の中でも相対的に良好な収入を得ていますので、そこに関心はないのです(いい恰好しやがって、と訝る方もおられるかもしれませんけれども、本当です。参加者がたった1名でもやる気満々でしたので)。
2、 ゆえに、これは完全にプロボノ活動です。このプロボノ活動が目指すものは何かと言えば、次のとおりです。すなわち、今後、人口が減少する日本で、ますます日本企業は海外に出て行かなければなりません。そこで必要となる知識には、アメリカ市場において必要となるアメリカ法と並んで、必ず英系common lawが含まれます(あと、中国市場における中国法)。ところが、現在全体の40%の仕事が英語(40%が中国法、20%が国際税務)である私が英語の仕事をこなすようになったここ数年間で多数の他事務所の弁護士の起案や意見を垣間見る中で、英系common lawに関して、ごく基本的な知識すら有していない先生方が圧倒的多数を占めることを知りました。これは私にとって、相当衝撃的な事実でした(英語を専門とすると標榜する先生方は、私の中国法同様、もっと深くアメリカ法や英系common lawを知っていると誤解していたからです)。もし弁護士についてそうなのであれば、法務部の皆さんにおいても、状況は全く一緒なのではないかと推察し、上記二、4、①②の参加者に全法務部員のcommon law知識調査を依頼したところ、いずれも全くこれに精通した部員はいないとの回答であったのです(これも衝撃でした・・・中国法はかなりの理解レベルに達している法務部員が相当数おられるので)。
3、 これがもしも日本の現状なのであれば、それを早期改善しなければ、例えばイギリス人弁護士が実は事実と証拠を理解していないために、おかしな意見を言っていても、法務部員がそれを神のご託宣の如く受け止め、日本企業に大きな被害を及ぼす危険があると思います。これは大手上場企業のみならず、中堅中小上場企業+未上場企業ですら海外に出て行かなければならない状況下において、社益のみならず、国益を棄損する深刻な事態です。
4、 私よりももっと深いcommon law知識と経験を有する先生が私と同種努力をしていただければ、私の出る幕はないのですが、見る限り、そういうことをされる先生はおらず、また巷で実施される英文契約セミナーの多くも、「英語学」を解説しているばかりで、common lawの基礎知識習得を目指すものは皆無のように見えます。そこで、誰もやらない以上、愛する中国法についての啓蒙をずっと行い続けてきたのと同様に、common lawについても、専門レベルは落ちるけれども、上記二、4、①乃至③の実験を経て(👈まず小さく実験をしてから、大規模展開するのは、中共中央及び中国政府の影響です)、皆さんと私の限定的なcommon law知識を共有したいと切望した次第です。
5、 私は20代で弁護士になりたいと思ったときに想像した何倍もの成功(👈他の偉い先生と比較すると、とてもささやかですが)を収めることができました。であれば、55歳になった現在、2人の子供も25歳、23歳になり、手が離れましたので、真面目に世間に恩返しするときだと思っております。
6、 以上の次第で、大阪弁(👈the centre of Osakaである天王寺生まれです)でいう「ええかっこしい」のように聞こえようとも、真面目に、全力で、プロボノ活動を実施しますので、どうぞ皆さまにおかれましては、共にcommon lawへの扉を開き、1000年近い歴史を有するその世界に続く長い道のりの第一歩を歩めればと存じます。

以上、長文メールをお読みいただき、衷心より感謝致します。

弁護士法人キャスト
弁護士・税理士・香港ソリシター 村尾龍雄


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