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鈴木竜太教授の経営組織論を読む

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「法と経営学」の観点から、「経営組織論」を勉強します。テキストは、鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)です。教授にご了解いただき、同書で示された経営組織…
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2021年5月の記事一覧

経営組織論と『経営の技法』#321

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ⑤変革その3 戦略的突出  このミドルによる戦略的な突出が変革につながるための重要な点は、その戦略的な突出を成功に導くことです。もし新しい試みが失敗すれば、戦略的な突出は説得力を失い、変革はそこで終わってしまいます。 そのためにも最初の突出をトップは何としても、成功へと導くことが必要になるのです。  大阪近鉄バファローズとオリックス・ブルーウェーブ(両チーム名とも当時)で監督を務め、両チームを下位の球団から優勝へと導いた

経営組織論と『経営の技法』#320

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ④変革その2 ミドルによる変革  そのため、2つ目に変革の主体をミドルに置くことも考えられます。つまり、実行レベルで変革を起こすのです。これを戦略的突出と呼びます。戦略的突出を生むためには変革型のミドルマネジャーが存在することが必要ですし、そのミドルレベルでの変革をサポートすることが必要になります。  具体的には、新しい試みを支援する資源の提供や変革への抵抗から守ることが挙げられます。たとえば、新しい試みを推進するチーム

経営組織論と『経営の技法』#319

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ③変革その1 トップによる変革  変革の段階では、具体的な変革が行われます。このときにその変革は、2つの主体によって行われることが考えられます。  1つは、トップによるものです。トップが進むべき道を示したり、具体的な変革の道筋を作ることで変革が行われます。いわゆるトップダウンによる組織変革です。トップが新しいビジョンを示すことなどはその一例です。  一方で、トップダウンによる変革は組織の末端まで浸透しない可能性があります

経営組織論と『経営の技法』#315

CHAPTER 12.3.1:組織における3つの変革 ②仕事プロセスの変革  仕事プロセスの変革は、職務の手順や手法、手段の変更を指します。これは組織全体というよりは、職場レベルの変革にあたります。たとえば、生産ラインを、1人の人が1つの工程を担当するようなライン方式から、1人の人が製品の組立てをすべて行うような屋台方式にすることは、仕事プロセスの変革といえます。あるいは、現場で絶えず改善を続けていくことも、この仕事プロセスの変革といえます。 【出展:『初めての経営学 経営組

経営組織論と『経営の技法』#316

CHAPTER 12.3.1:組織における3つの変革 ③人材の変革  しかし、このような変革を起こすためには、そこで働く人の意識や考え方、態度、行動を変えていくことも必要になります。これが人材の変革になります。日々改善するためには、そこで働く人が常に新しいやり方を試みたり、より良いやり方や手順を模索するような意識や具体的な行動が必要になります。  もし、ルールを守ることが大事である、これまでのやり方を守るということが大事だと考えていれば、このような改善は起こりません。積極的に

経営組織論と『経営の技法』#318

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ②解凍  穏やかな日常の見方における組織変革のプロセスは、図12-2にあるように、3つの段階のモデルで示されます。それは、「解凍→変革→再凍結」です。  現状が安定的ですから、まずはその状態を動かし、変革を受け入れる素地を作ることが、最初のステップになります。このようなアクションを戦略的な揺さぶりと呼びます。たとえば、トップマネジメントが現状のままで進むことの危機を伝えることで、変革が必要であるという認識が組織メンバー

経営組織論と『経営の技法』#317

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ①意味  では、実際にどのようにして組織変革は起こるのでしょうか。変革のプロセスには2つの異なる見方があります。この見方の違いによって、組織変革への対応は異なることになります。  1つの見方は、組織の日常は穏やかで進むべき道もはっきりし、安定しているが、変革を起こすことで組織が乱れ、あたかも嵐の中で航海するようになるという見方です。そして、やがて変革が落ち着けば、新しい道をめざして再び穏やかに進むことになります。  もう

経営組織論と『経営の技法』#314

CHAPTER 12.3.1:組織における3つの変革 ①構造の変革  企業がこれまで取り扱ってきた製品やサービス、培ってきた技術を変えていくといことも変革の1つですが、組織ということに限っていえば、構造の変革、仕事 プロセスの変革、人材の変革の3つが変革の対象となります。  構造の変革は、権力関係や協力体制、職務内容など組織の構造にかかわることを変えることを指し ます。第4章で触れたように、組織の構造の変更は、それぞれの職務の内容や権限関係を変えることにつながります。  たと

経営組織論と『経営の技法』#313

CHAPTER 12.3:組織変革のマネジメント  組織の発達に伴って組織が変わっていってしまうにせよ、自ら組織を変えていくにせよ、組織変革とはいったい何が変わることを指すのでしょうか。精巧化段階に入り、成熟した組織では声高に「組織変革をしなくてはならない」といわれることがありますが、いったい何を変えることが組織変革になるのでしょうか。 【出展:『初めての経営学 経営組織論』274頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】  この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村

経営組織論と『経営の技法』#312

CHAPTER 12.2:組織のライフサイクル ⑩まとめ  組織は、放っておいても大きくなるわけではありません。製品やサービスが市場で受け入れられれば、事業の規模は拡大していくことになりますが、それに伴い、それぞれの段階での危機にうまく対処しなければ、特定の段階で停滞することになります。  また、もし危機への対処を間違えれば組織は活力を失い、衰退していくかもしれません。組織の規模が拡大することで、組織は新しい段階へと進む、つまり組織は変化していくことになりますが、そのためには

経営組織論と『経営の技法』#311

CHAPTER 12.2:組織のライフサイクル ⑨精巧化段階  こうして、組織は最後の段階である精巧化段階に入っていきます。この段階になると規模もこれ以上大きくなりようのないものになり、まさしく大企業になります。この時期の危機は活性化の必要性です。これ以上の規模的な成長がなかなか望めない状況において、組織はまさしく成熟期に入り、大きすぎるがゆえに、そして安定しているがゆえに、環境の変化などへの対応が素早くできなくなっていきます。そのため、トップの交代をはじめとして、組織の活性

経営組織論と『経営の技法』#310

CHAPTER 12.2:組織のライフサイクル ⑧共同体段階の危機  この時期の危機は、このような組織らしくなることの問題、つまり、官僚的形式主義の行きすぎです。さまざまなルールや意思決定をはじめとする仕組みが定まることで、組織は安定的で継続的な活動が可能になりますが、一方でそれが組織メンバーにとっては息苦しくなることもあります。現場とスタッフ部門やトップ層の役割が明確になることで、現場はスタッフ部門やトップ層からの指示や命令に悩まされることもあります。  某テレビドラマで「

経営組織論と『経営の技法』#309

CHAPTER 12.2:組織のライフサイクル ⑦共同体段階の意味  共同体段階での危機を超え、組織の規模がさらに大きくなると公式化段階になります。公式化段階では、組織はルールや手順、コントロールの仕組みなどを導入し、マネジメントを行います。そのため、インフォーマルなコミュニケーションは減少し、公式的な情報伝達を中心として組織は動いていきます。  また、技術者や人事スタッフ、経理の専門家などの専門能力を持ったスタッフが組織に入る場合もあります。この段階では、トップ層は、事業戦

経営組織論と『経営の技法』#308

CHAPTER 12.2:組織のライフサイクル ⑥共同体段階の危機  この時期の危機は、権限委譲の必要性です。組織の規模が大きくなることで、階層が出来上がってきます。つまり、「トップ層—ロワー層」という階層ではなく、「トップ層—ミドル層—ロワー層」という階層になります。このような階層になると、トップが今までのようにすべての人に直接的に指示を出すことや判断をすべて行うことが難しくなります。ですから、だんだんとトップ層は自分の持っていた責任や権限を下位のミドル層に委譲する必要が出