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鈴木竜太教授の経営組織論を読む

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「法と経営学」の観点から、「経営組織論」を勉強します。テキストは、鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)です。教授にご了解いただき、同書で示された経営組織…
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2021年1月の記事一覧

経営組織論と『経営の技法』#252

CHAPTER 10.2.2:組織における適応 ②リアリティショックの影響  リアリティショックを経験することで、組織や仕事への適応が遅れてしまうことがあります。なぜなら現実の組織や仕事に対して違和感を持つことで、仕事におけるさまざまな経験に対して前向きに捉えることができなくなってしまうからです。  たとえば、職場や組織、仕事であれ、リアリティショックを受けると、新しい仕事を与えられても自分はこんな仕事をするためにこの会社に入ったわけではないというように、その仕事経験を先のキ

経営組織論と『経営の技法』#251

CHAPTER 10.2.2:組織における適応 ①リアリティショック  組織における社会化プロセスでは、さまざまなことを学ぶことになりますが、学ぶだけではなく、それを通して組織に適応していくことが重要になります。しかし、新たなことを学ぶことが、かえって組織への適応を妨げてしまうことがあります。  たとえば、デザインの仕事をしたいと思って入った会社で、デザインの仕事ができるのは10年くらい経ってからで、しばらくは営業の仕事をしなくてはいけないという人事上の慣習があることを知った

経営組織論と『経営の技法』#250

CHAPTER 10.2.1:新人が学ぶこと ④組織の全貌  また、社会化プロセスで学ぶべきものとしては、組織の戦略や組織全体の構造など組織の全貌にかかわるものもあります。これらは会社案内などに書かれている経営理念や組織図だけでなく、その戦略の意図や具体的に実行される計画、あるいは組織図上の部門の役割や連携関係など、書かれていない情報も学ぶことが必要になります。  しかしながら、これらのことを新人が学ぶのは簡単ではありません。それは、新人がアクセスできる情報が限られているから

経営組織論と『経営の技法』#249

CHAPTER 10.2.1:新人が学ぶこと ③自分の役割  また、職場でうまく仕事をするためには、組織や職場における自分の役割を学ぶ必要があります。言い換えれば、周囲から自分が何を求められているのか、どのような役割を果たすことを期待されているのかということを学ぶのです。  たとえば、新人であれば、まずは先輩のサポート役という役割を果たさなければならないかもしれません。そのときは、先輩の仕事がはかどるように書類をまとめることや準備を手伝うことなどを積極的にこなすことが求められ

経営組織論と『経営の技法』#248

CHAPTER 10.2.1:新人が学ぶこと ②組織  一方、組織についても学ぶことが少なくありません。組織について学ぶことの第1は、職場の上司や同僚の名前や地位、あるいは人柄や性格です。あるいは職場の中の人間関係もそうかもしれません。職場の上司や先輩の名前を覚えなければ、組織で仕事生活を送れませんし、仕事をするうえでは上司や同僚の人柄や性格も学ぶべき必要のあるものです。  あるいは、組織において物事がどのように決まるのか、発言力があるのは誰か、といったことを学ぶのも仕事をす

経営組織論と『経営の技法』#247

CHAPTER 10.2.1:新人が学ぶこと ①仕事  では、新人が組織に入って学ばなければならないことにはどのようなことがあるでしょうか。定義からわかるように、新人が学ばなければならないことは、仕事にまつわることと組織にまつわることです。それぞれについて主なものを挙げてみましょう。  まず、仕事にまつわるものとして挙げられるのは、仕事をするための知識やスキルです。たとえば仕事で使われる専門用語がわからなければ仕事が進みませんし、先輩や上司の言っていることもわからないでしょう

経営組織論と『経営の技法』#246

CHAPTER 10.2:社会化プロセス  先に述べたように、組織のメンバーが最も学習しなくてはいけない時期は、組織に入ってしばらくの間です。プロスポーツの世界では時に、チームに入っていきなりチームの主軸として活躍ができる選手もいますが、企業組織においてはきわめて特殊な能力や技術にかかわる仕事以外では、このようなことは稀です。  しかし、だからといって、個人任せで知識や能力が十分に身につくのを待つのは時間がかかるものです。他の組織メンバーと同様に給料を払っているのであれば、い

経営組織論と『経営の技法』#245

CHAPTER 10.1.2:社会的学習理論 ③組織との関係  模倣による学習は、必ずしも新しいことを生み出すわけではありません。むしろ、すでに組織の中にその行動ができている人がいなければ、模倣やモデリング学習は生まれません。そのことから考えればモデリング学習は、組織に新しいことをもたらす学習とはいえない側面を持っています。しかし、組織にとって新しいことを生み出す学習はもちろん重要ですが、新しく入ってきた人が一人前になる場面など、組織の中のエキスパートを真似て、そのレベルまで

経営組織論と『経営の技法』#244

CHAPTER 10.1.2:社会的学習理論 ②プロセス  まず注意過程は、手本となる人に注意を払うプロセスです。このとき人は魅力的で、繰り返し観察ができ、さらに重要あるいは自分に似ていると思われる手本に対して最も影響を受けるとされています。子どもは親の鏡といわれますが、子どもにとって親は(魅力的かどうかは置いておいて)、繰り返し観察ができ、自分に似ている存在です。そのため、親を手本にさまざまなことを真似て行動をすると考えられるのです。  次に、保持過程は、手本の記憶に関する

経営組織論と『経営の技法』#243

CHAPTER 10.1.2:社会的学習理論 ①意義  人は直接経験だけで学習するわけではありません。見よう見まね、また「門前の小僧習わぬ経を読む」というように、人の行動を観察することで学習することもあります。つまり模倣による学習です。これはモデリング学習とも呼ばれるように、お手本やモデルを参照することで学習をすることを指します。  このように、人は観察を通して学ぶことができるとする考え方を社会的学習理論と呼びます。社会的学習理論では、手本となる他者の存在が重要になります。こ

経営組織論と『経営の技法』#242

CHAPTER 10.1.1:経験による学習 ⑥まとめ  経験による学習の最も重要な点は、経験を経験のままにしておかないということになります。組織の中ではさまざまな出来事を経験することになりますが、成功した経験であれ、失敗した経験であれ、この経験をそのままにしておけば、人々の学習はなかなか進みません。学習は個人によってなされるものでもありますが、組織における学習を促進するためには、内省を促したり、マネジャーがフィードバックをしたり、みんなで対話するようなこと、あるいは、それを

経営組織論と『経営の技法』#241

CHAPTER 10.1.1:経験による学習 ⑤能動的実験(step4)  最後の段階は、能動的実験です。これは抽象的概念化によって生まれたルールやルーティンを実際に試してみる段階です。ただ頭の中で結論づけるだけでなく、次の行動において実験的に新しいルールやルーティンを実践することでさらなる学習が生まれます。そして、この能動的実験は、新たな具体的経験となり、再び学習のサイクルに入ることになります。  経験による学習の最も重要な点は、経験を経験のままにしておかないということにな

経営組織論と『経営の技法』#240

CHAPTER 10.1.1:経験による学習 ④抽象的概念化(step3)  3番目の段階は、抽象的概念化と呼ばれます。これは経験を一般化したり概念化したりすることを指します。あるいは、経験を他の状況でも使えるようにルール化することやルーティンを自ら作ることを指します。この段階を経ない経験は、全く同じ状況でしか使えない知識になってしまうため、ルールやルーティンといったさまざまな状況でも使える形に経験を変換する必要があるのです。  たとえば、初めて作る料理を失敗してしまったとき

経営組織論と『経営の技法』#239

CHAPTER 10.1.1:経験による学習 ③内省的観察(step2)  次の段階は、内省的観察です。内省的観察は、学習者が仕事の現場を離れて自分の行動や経験、出来事の意味を多様な観点からり振返り、意味づけることを指します。このような内省的観察を行ううえで重要なことは、未来志向であることと、相互作用を伴うことです。未来志向であるということは、次はこうしよう、といったように、単に振り返るだけではなく次からの行動につなげようとすることです。このような志向がなければ、内省を行った